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【第5章】第1節 日常生活の熱中症予防指針(2)

5. 熱中症弱者への対応

(1) 熱中症弱者とは

 高齢者,病人・薬物服用者や乳幼児などは熱中症を発症しやすい熱中症弱者と言えるので,一般の人を対象とした熱中症予防に比べて,より積極的な対策が必要となります。 異常な暑さ(連日 35℃を超えるような暑さ)が続く時は,積極的に冷房(室温が 28℃を超えないよう)を使う必要があります。自宅に冷房装置がない場合は,空調の効いた公共施設や商業施設に避難する(たとえ数時間でも涼しいところでからだを休めることは有効です)。

 厳重警戒以上の温度基準域(WBGT28℃以上)では,不要な外出,屋外での作業などは控えます。水シャワーや水浴びも体温を下げるのに有効です。睡眠時の熱中症発症予防のために,就寝前に必ず水分を補給します。夜間に気温があまり下がらない日には,冷房をつけて寝ることも必要です。

① 高齢者,病人への対応

熱中症死亡者の約 80% は高齢者です。高齢者,基礎疾患を有する人は,体温調節能が低く,熱中症に対して特に注意が必要です。居室の温度が 28℃を超えないよう冷房で調節します。周囲に高齢者がいる場合は,訪問や電話による安否確認を1日2 回程度行います。

② 障害のある人への対応,

特に脊髄損傷障害がある場合は,その障害の水準により体温調節障害が起こるので,健常者に比べて環境の変化に影響されやすいです。熱放散機能,特に発汗機能に障害がある場合は,気温が上昇する期間は特に注意が必要です。

③ 幼児・学童などへの対応

乳幼児を含む子どもや肥満者,障害者は暑さに対する抵抗力が低いのが特徴です。乳幼児においては保護者が,また,その他の人においては,各自が暑さに対する特性を理解し,十分対応することが大切です。


(2) 熱中症弱者の温度基準域

以下の項目に該当する場合は,特に注意が必要であり,温度基準域を下げた「注意事項」を適用します。また、周囲の人々の注意も必要です。

  1. 幼児・学童は体温調節機能が未発達であり,保護者の対応が不適切になると発症しやすい。
  2. 65 歳以上の高齢者,特に 75 歳以上の後期高齢者は発汗能や口渇感等,体温調節機能が低下します。このために熱中症を発症しやすい。
  3. 肥満者は,より体温が上昇しやすい傾向にあるため,熱中症を発症しやすい。
  4. 仕事や運動(スポーツ)に無理をしすぎる人,頑張りすぎる人は熱中症を発症しやすい。
  5. 基礎疾患(高血圧,心疾患,慢性肺疾患,肝臓病,腎臓病,内分泌疾患など)のある人,寝たきりの人は発症しやすい.熱中症の発症を助長する以下のような薬を服用している人も発症しやすい.
    (抗コリン作用のある薬(鎮痙薬 * ,頻尿治療薬 * ,パーキンソン病治療薬 * ,抗ヒスタミン薬,抗てんかん薬,睡眠薬・抗不安薬,自律神経調節薬,抗うつ薬,β 遮断薬,ある種の抗不整脈薬,麻薬)は発汗抑制を来たす可能性があります。 利尿剤は脱水を来たしやすい。 興奮剤・覚せい剤は代謝を亢進させる.多くの抗精神病薬 * は体温調節中枢を抑制する可能性がある。 * 医薬品添付文書に,「発汗(あるいは体温調節中枢)が抑制されるため,高温環境では体温が上昇するおそれがある」との記載のある薬品)。
  6. 発熱,下痢,二日酔い,睡眠不足等,体調不良の場合は発症しやすい。
  7. 農作業,安全対策作業等で厚着,安全服等で全身を覆う場合は発症しやすい。
  8. 急激に高温となった場合。例えば、暑さに慣れていない6月以前、また,日常生活で高温暴露の経験が少ない場合,旅行や移動(涼しい場所から高温の場所へ)の場合および気象変化などで急激に高温となった場合なども発症しやすい。
  9. 乳幼児の保護, 特殊な場合として,乳幼児の自動車内放置による熱中症は,保護者の不注意等の要因によって多く発症する。停車中の自動車では車内の温度は,数分で 50℃以上になることがあります。エンジンをかけ,クーラーをつけていても,何かの拍子でエンジンやクーラーが切れることもあるので,季節にかかわらず,短時間であっても,絶対に車内に子どもだけを残さないことが大切です。

6. 発生の実態

(1) 熱中症死亡数

 熱中症による死亡数は 1968~2010 年までの 43年間で,9,370 件(男 5,507 件,女 3,863 件)であり,年平均では 195 件である.1970~1994 年までの年平均は 88 件であるが 1995~2010 年は 440 件で,1995 年以降増加傾向にあり,2010 年は 1745件となり著増しました。

 65 歳以上の熱中症死亡数が熱中症総数に占める割合は,1995 年は 54.4%であったが,2004 年は69.3%,2006 年は 68.8%,2007 年は 74.9%,2008年は,72.1%,2010 年は 79.0%であり,近年増加傾向にあります。65 歳以上の人口の増加も関係するが,死亡率,年齢調整死亡率による検討でも増加傾向にあります。一方,64 歳以下の各年齢層では 1995 年以降低減傾向です。

(2) 熱中症発生場所

 また,高齢者の熱中症発生場所は,自宅(約45%),屋外道路・駐車場(約 25%)であり,睡眠中の発症も多いので注意が必要です。

(3) 救急搬送者数

  一方,夏季の熱中症による救急搬送者数の統計では,2010 年には全国で 53,843 人が搬送され,うち 46.4%が 65 歳以上の高齢者であり,2011 年,2012年にもおよそ4万人が熱中症により搬送され,そのおよそ 45%が高齢者となっています。

7. 【理解の確認と討議】

【理解の確認】

  • WBGT値は4段階だが、生活活動強度は何段階ですか? また、それはどのような分類ですか?
  • 日常生活で熱中症を予防するための服装は?
  • 熱中症弱者とは、どのような方たちでしょう?

【討議】

  • 関係者と自分たちの日常生活での“熱中症予防のための行動計画”を作りましょう。

 

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