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「なぜ?」を掘ると事故の見え方はどう変わる?

労働災害の事例を見ると、 原因として 「作業者が確認しなかった」 「決められた手順を守らなかった」 と書けそうなことがあります。

では、 「本人が注意すればよかった」 で原因分析を終えてよいのでしょうか。

その人がなぜ確認しなかったのか。
なぜそのような作業になったのか。
なぜそれを防ぐ仕組みがなかったのか。

「なぜ?」を一つずつ掘っていくと、 最初に見えていたものとは 違う問題が見えてくることがあります。

ここでは、 当協会の職長・安全衛生責任者教育テキストで紹介している 「なぜなぜ分析」と、 厚生労働省の教材で紹介されている 4M分析の考え方を参考に、 事故や災害の背景をもう一段掘ってみます。

最初に見える原因は、直接的な要因かもしれない

例えば、 作業者が脚立から転落したとします。

事実を確認すると、 脚立から身を乗り出して 作業していたことが分かりました。

そこで、

「作業者が無理な姿勢で作業した」

というところで 分析を終えることもできます。

しかし、 これだけでは 「次から気をつける」 という対策しか 出てこないかもしれません。

無理な姿勢で作業した
↓
注意して作業する

では、 もう少し「なぜ?」を続けてみます。

「なぜ?」を一段ずつつないでみる

次は説明のための 架空の例です。

実際の災害調査では、 推測で原因を決めるのではなく、 確認できた事実をもとに分析します。

脚立から身を乗り出して作業した
↓ なぜ?
作業位置まで手が届かなかった
↓ なぜ?
脚立を移動させずに作業を続けた
↓ なぜ?
周囲に資材があり、移動しにくかった
↓ なぜ?
作業場所と資材置場の配置を 事前に整理していなかった

最初に見えたのは 「作業者の無理な姿勢」でした。

しかし、 「なぜ?」をたどると、 作業場所の配置や作業計画 にも目を向ける必要があることが分かります。

最後に起きた行動だけを直しても、 背景が同じなら似たことが起こるかもしれません。

「その人が何をしたか」だけでなく、 なぜそうする状況になったのか まで見てみます。

「なぜ」は必ず5回でなければならない?

当協会の職長・安全衛生責任者教育テキストでは、 発生原因について 「なぜそうなったか、なぜそうしたか」を 5回程度繰り返して追求する 「なぜなぜ分析」を紹介しています。

ここで大切なのは、 「5回」という回数だけを 達成することではありません。

災害を防止するためには、 正確な事実を追及する姿勢 が欠かせません。

とにかく5回聞けば終了
ではなく
事実を確かめながら原因を掘る

「なぜ?」は一つの方向だけとは限らない

当協会テキストでも、 災害は通常、 一つだけの原因で起きるのではなく、 いくつかの原因が重なって発生する と説明しています。

例えば、 脚立から転落したという一つの結果でも、

脚立から転落
↓
作業者の状態・行動は
どうだった?
脚立や作業場所は
どうだった?
作業計画・指示は
どうだった?

というように、 複数の方向から 確認する必要がある場合があります。

一つの原因だけを早く決めるのではなく、 災害に関係した要因がほかになかったか を確認します。

4Mで見ると、別の「なぜ?」が見つかる

原因を一方向からだけ見ないために 使える考え方の一つが、 4M分析です。

厚生労働省の建設業向け教材では、 不安全状態、不安全行動やヒューマンエラーなどの 直接的な原因だけで災害を捉えると、 背景にある本質的な原因や 改善すべき運用を見逃す可能性がある と説明しています。

そこで、 災害発生の要因を 次の4つに整理して分析します。

4M 要因 見るところの例
Man 人的要因 忘れ、考え事、誤認、疲労、 睡眠不足、人間関係、 チームワークなど
Machine 設備的要因 機械・設備の設計や配置、 安全装置等の不足、 点検・整備の不足など
Media 作業的要因 作業情報、作業方法、 作業姿勢・動作、 作業空間・作業環境条件など
Management 管理的要因 管理組織、規定・マニュアル、 作業手順、教育訓練、 監督・指導、工程計画、配置など

例えば、 「作業者が身を乗り出した」という Manだけを見ていたところから、

脚立や設備という Machine、 作業場所や作業方法という Media、 事前の作業計画や指示という Management へ視点を広げられます。

4Mは「4つすべてに原因を作る」ためのものではありません

災害が起こるに至った要因を 系統的に整理し、 原因の本質を考えるための視点 として使います。

「本人が悪かった」で止まると、対策も本人頼みになりやすい

例えば問題を、

「注意不足だった」

だけにすると、 対策も、

「注意するよう指導する」

だけになりやすくなります。

しかし背景まで確認すると、 対策の選択肢が増えます。

見つかった問題 対策の例
作業位置が届きにくい 適切な作業床や設備を 用意できないか検討する
資材が邪魔で移動しにくい 資材置場や通路を見直す
作業前に確認されていない 作業手順や事前確認の方法を見直す
作業中の指導・確認が十分でない 巡視、声掛け、 作業中の確認方法等を見直す

人への注意や教育が 不要になるわけではありません。

人への対策だけで終わらず、 設備、作業方法、管理まで含めて 再発防止策を考える ことがポイントです。

「なぜ?」で作業者を追い詰めない

なぜなぜ分析で 注意したいことがあります。

「なぜそんなことをしたのか」 「なぜ守らなかったのか」 と本人を問い詰めるだけでは、 原因調査ではなく 責任追及になってしまうことがあります。

当協会テキストでは、 災害調査は当事者の責任を追及するために 行うものではない としています。

また、 災害事例研究では、 「だれが災害を起こしたか」よりも、 「何が真の原因で災害が発生したか」を明らかにする ことを目的の一つとしています。

誰が悪かった?
ではなく
何が起き、なぜそうなった?

目的は、 責任を一人に集めることではなく、 同じような条件がそろったときに 同種・類似の災害を繰り返さないようにすること です。

「なぜ?」の前に、まず事実を確認する

原因を掘る前に、 もっと重要なことがあります。

それは、 何が実際に起きたのかを確認すること です。

当協会の災害調査では、 被災者、目撃者、付近にいた労働者などから 発生状況を聴取し、 災害と関係のあった事実を 人・物・管理・作業の経過 という面から客観的に明らかにします。

確認するもの 見ること
発生状況 いつ、どこで、誰が、 何をしていたか
現場 設備、工具、作業場所、 周囲の状態
作業の流れ 災害までに何が起きたかを 時系列で整理する
管理・作業条件 手順、指示、教育、 点検、役割分担など

事実が分からないところを 想像で埋めてしまうと、 その後の「なぜ?」も 間違った方向へ進んでしまいます。

「なぜ?」を始める前に、 「本当にそうだったのか?」を確認する。

事実と推測を分けることが、 原因分析の出発点です。

実際の災害事例でやってみる

厚生労働省の 「職場のあんぜんサイト」では、 死亡災害や重大災害などについて、 発生状況、原因、対策 を確認できる労働災害事例が公開されています。

一つの事例を読んだら、 掲載されている原因と対策を見る前に、 まず自分たちで考えてみる方法もあります。

① 発生状況を読む
↓
② 「なぜ?」を考える
↓
③ 4Mで別の要因がないか確認
↓
④ 自分たちで対策を考える
↓
⑤ 公開されている原因・対策と比べる

正解を当てることが目的ではありません。

自分たちはどこまで背景を考えられたか を確認する材料になります。

▶ 職場のあんぜんサイト「労働災害事例」を見る

災害事例研究と組み合わせて使う

このページでは、 原因を深く見るための 「なぜ?」と4Mに絞りました。

実際に災害事例研究を行うときは、 当協会テキストで紹介している 4段階の手順で整理できます。

第1段階 事実の確認
↓
第2段階 問題点の発見
↓
第3段階 根本的問題点の決定
↓
第4段階 対策の樹立

「なぜ?」を掘る考え方は、 第2段階から第3段階で 問題の背景を考えるときにも活用できます。

▶ 災害事例研究を実際にやってみる

原因を見るときに確認してみる

確認してみること 確認
事実と推測を分けた □
最初に見えた直接的な要因だけで終わっていない □
「なぜそうなったか」を事実に沿って確認した □
ほかにも関係した要因がなかったか確認した □
ManだけでなくMachine、Media、Managementからも見た □
「本人の注意」だけで終わらない対策を考えた □
得られた問題点を 同種・類似災害の防止にも活かせないか考えた □

「何が起きたか」だけを見ると、 その事故だけの話に見えることがあります。

しかし、 「なぜ?」を一つずつたどっていくと、 設備、作業方法、計画、教育など、 別の現場にも共通する問題 が見えてくることがあります。

事故を 「その人、その日だけの出来事」で終わらせず、 次の作業を見る材料に変える。

原因分析を行う意味の一つは、 そこにあります。

次は実際の建設業の災害事例を使ってみる

次のページでは、 厚生労働省の 「職場のあんぜんサイト」に掲載されている 建設業の災害事例を、 自分の現場だったらどうか という視点で読み替えてみます。

▶ 建設業の災害事例を自分の現場に置き換えてみる

講習テキストでも確認できます

当協会の 「職長・安全衛生責任者教育」テキストでは、 災害調査・分析の流れと 「なぜなぜ分析」について解説しています。

▶ 災害調査、分析、対策の手順・なぜなぜ分析を見る

災害事例研究の目的と 4段階の進め方については、 次のページで確認できます。

▶ 災害事例研究の進め方を見る

厚生労働省の建設業向け教材では、 直接的な原因だけではなく 背景にある要因を見る方法として、 4M分析が紹介されています。

▶ 厚生労働省「建設業向け教材・4M分析」を見る

建設業の災害防止に関する 通達や資料は、 厚生労働省の「建設業における安全対策」から確認できます。

▶ 厚生労働省「建設業における安全対策」を見る


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