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建設業の災害事例を自分の現場に置き換えてみる

労働災害の事例を読んで、 「うちではこの作業はしないから関係ない」 と思ったことはないでしょうか。

足場の事故なら、 足場を使わない現場には関係ない。

重機の事故なら、 その重機を使わない現場には関係ない。

しかし、 災害が起きた設備や作業そのものではなく、 「どんな条件が重なっていたのか」 を見ると、 自分たちの現場にも似た状況が 見つかることがあります。

ここでは、 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に掲載されている 実際の建設業の労働災害事例を使って、 他の現場の災害を 自分の現場へ置き換えて読む方法 を試してみます。

今回使うのは、足場解体中の墜落事例

「職場のあんぜんサイト」には、 次の労働災害事例が掲載されています。

マンションの大規模修繕工事現場で、 足場の解体作業中に発生した墜落災害

解体した足場材の受け渡し役をしていた作業者が、 次の足場材を受け取るために足場上を移動した際、 地上へ墜落した事例です。

掲載されている発生状況では、 足場上を移動するときに 親綱の中継点があり、 2丁掛けの安全帯のフックを 掛け替える必要があった ことが記載されています。

また、 日没に差しかかり、 作業現場が薄暗くなり始めていた ことも記録されています。

なお、 この災害事例では 当時の表現で 「安全帯」 と記載されています。

現在は法令上、 旧「安全帯」は 「墜落制止用器具」 という名称になっていますが、 このページでは元の災害事例を紹介する部分では 掲載ページの表現を尊重しています。

▶ 今回使用する労働災害事例を見る

まず「原因」を見ずに発生状況を読んでみる

災害事例には、 発生状況だけでなく、 原因や対策も掲載されています。

最初から原因と対策まで読めば、 短時間で内容を確認できます。

しかし、 職場で災害事例研究に使うなら、 一度、 「発生状況」から 自分たちで問題点を考えてみる 方法もあります。

① 発生状況を読む
↓
② 何が問題だったか考える
↓
③ どんな対策ができるか考える
↓
④ 掲載されている原因・対策と比べる

正解を当てることが目的ではありません。

自分たちはどこに注目したか、 何を見落としたか を確認する材料になります。

事例から確認できる「事実」を取り出す

まず、 掲載されている発生状況から 確認できることを整理してみます。

見るところ 事例から確認できること
作業 マンションの大規模修繕工事現場で、 足場の解体作業中だった
被災者の役割 解体した足場材の受け渡し役として、 足場材を足場上で運んでいた
災害が起きたとき 荷降ろし役へ足場材を渡した後、 次の足場材を受け取るために 足場上を移動していた
安全帯に関係する状況 親綱に中継点があり、 2丁掛けの安全帯のフックを 掛け替える必要があった
周囲の状況 日没に差しかかり、 足場の解体作業現場が 薄暗くなり始めていた

ここまでは、 掲載された事例の 「発生状況」から確認できる内容です。

まず「書いてあること」と 「自分が考えたこと」を分ける。

災害事例を読むときも、 最初から自分の経験で原因を補わず、 確認できる事実を整理してから考えます。

自分たちなら、どこを確認したい?

ここからは、 発生状況を読んだうえでの こちら側の検討です。

この段階では、 「原因だった」と断定せず、 問題として考えられることや、 さらに確認したいこと を出していきます。

フックを掛け替える場所がある
+
足場上を移動しながら作業している
+
暗くなり始めている

さらに、 足場の解体作業であることから、 作業の進行に伴って 作業場所の状態が変化していなかったか なども確認したくなります。

これは掲載ページが 災害原因として示した事項ではなく、 事例を読んだ側が 自分の現場へ活用するために考える確認事項 です。

実際に掲載されている原因と比べてみる

では、 「職場のあんぜんサイト」に掲載されている 原因を確認します。

この事例では、 「この災害の原因としては、 次のようなことが考えられる」 として、 大きく3点が挙げられています。

項目 掲載事例で挙げられている内容の概要
1 2丁掛けの安全帯が 適切に使用されていなかったこと
2 日没を迎えて 作業現場が薄暗くなり始めていたにもかかわらず、 作業を続けたこと
3 専任の監視人が不在で、 作業主任者が自ら作業を行いながら 監視業務も行っていたこと

掲載ページでは、 1点目について、 フックを掛け替える際に 新しい側へ確実に掛ける前に もう一方を外した、 または掛けたつもりのフックが 完全に掛かっていなかった可能性 が示されています。

2点目については、 薄暗くなったことで 親綱を十分に目視できなかったり、 布板の隙間につまずいたりする リスクが高まっていた可能性が示されています。

自分たちで考えた内容と 同じものがあったでしょうか。

あるいは、 監視体制など、 自分たちでは気づかなかった問題が あったかもしれません。

掲載されている対策も比べる

この事例では、 類似災害を防止するための対策として、 次の3つの方向が示されています。

問題 掲載されている対策の概要
2丁掛け安全帯の使用 適切な使用方法について教育を徹底し、 作業開始前に作業員同士で 適切な使用方法を相互確認する
薄暗い作業環境 日没間際まで作業しない、 または照明設備を設け、 手元・足元が確実に見える照度を確保する
監視体制 監視人が不在とならないよう 連絡体制を強化する。
専任の監視人を置くことが困難な場合には、 副担当となる人員を複数選任する

ここまで読めば、 この災害について 「何が起き、 何が原因として考えられ、 どんな対策が示されたか」 を確認できます。

しかし、 ここで終わらせると 「その現場の事故を勉強した」 だけになることがあります。

ここから「自分の現場」に置き換える

今回の現場と まったく同じ作業をしている必要はありません。

ここからは、 掲載ページの対策をそのまま写すのではなく、 災害に関係した条件を 自分の現場へ置き換えて考える活用例 です。

今回の事例から見る条件 自分の現場なら?
フックを掛け替える場所がある 墜落制止用器具の 掛け替えが必要になる場所はないか
日没で薄暗くなっていた 夕方、屋内、地下など、 手元・足元が見えにくくなる作業はないか
作業しながら監視していた 監視・誘導・合図など、 見ることが重要な役割を 別の作業と兼務していないか
足場の解体作業だった 組立・解体など、 作業の進行に伴って 作業場所の状態が変わる作業はないか
「同じ作業があるか」だけでなく、 「似た条件がないか」を探す。

そうすると、 別の工事、別の作業で起きた災害でも、 自分たちの現場を見る材料になります。

例えば「薄暗くなる」を別の現場へ置き換える

今回の災害では、 日没に差しかかって 作業現場が薄暗くなっていました。

自分の現場で 同じように夕方まで 足場解体を行っていなくても、

地下・ピット内の作業
+
建物内部の暗い場所
+
夕方まで続く屋外作業
+
照明設備の位置が変わる作業

など、 「手元や足元が見えにくくなる」 という共通点を持つ作業はないでしょうか。

このように置き換えれば、 足場の災害事例を 別の作業を見る材料にもできます。

「監視しながら別の作業」も置き換えてみる

今回の事例では、 専任の監視人が不在で、 作業主任者が 自ら作業しながら監視も行っていました。

ここからは、 この事例をもとに 「見ることが重要な役割と、 ほかの作業を兼ねていないか」 という視点へ置き換えてみます。

場面の例 確認してみること
重機の誘導 誘導を担当する人が 別の作業に気を取られる状態になっていないか
玉掛け作業の合図 合図を行う人の役割や 連絡方法が明確になっているか
立入禁止区域の確認 必要な時間に 担当者がその場を離れることはないか
共同作業の指揮 指揮する人が ほかの作業で手いっぱいになっていないか

ここで挙げた場面は、 今回の災害事例に掲載された 原因・対策そのものではありません。

事例にあった「監視と作業の兼務」という状況を、 別の現場へ応用して考える例 です。

設備が違っても、似た条件を探す

災害事例を 自分の現場へ活用するときには、 「足場」「バックホウ」「クレーン」といった 設備の名前だけで分類しない方法もあります。

事例から取り出した条件 自分の現場で探してみるもの
掛け替え・切替えの場面 保護措置や作業状態が 切り替わる場面はないか
視界が悪くなる 暗所、粉じん、死角など 見えにくくなる作業はないか
監視と作業の兼務 監視・誘導・合図などを担当する人が ほかの作業も行う場面はないか
解体作業 作業の進行に伴って 設備や作業場所の状態が変わる作業はないか

このように見ると、 まったく同じ事故でなくても、 似た条件を持つ作業 が見えてくることがあります。

対策も、そのままコピーしない

災害事例に掲載された対策は、 その災害を理解するうえで 大切な資料です。

しかし、 自分の現場へ活用するときには、 掲載された対策を そのままチェックリストへコピーするだけではなく、 自分の現場なら何を変えるのか まで考えます。

事例の対策
手元・足元が見える照度を確保する
↓
自分の現場では?
暗くなる場所や時間帯はどこか
↓
具体的な対策へ
照明の位置や点灯時期、確認方法を決める

当協会の災害事例研究でも、 対策は 具体性、必要性、実施可能性 のあるものとし、 実施計画では 「いつ、だれが」など 5W1Hを明らかにすることとしています。

自分の現場に置き換える5つの質問

別の災害事例を読むときにも、 次のように考えてみます。

① 何が起きた?
まず掲載されている事実を整理する
② どんな原因・背景が考えられる?
掲載された原因を見る前に自分たちでも考える
③ 自分の現場に似た条件はない?
設備名だけでなく、似た状況を探す
④ その条件を変えるには何ができる?
設備、手順、配置、時間、役割などから考える
⑤ 誰が・いつ・どう確認する?
実行できる形まで具体化する

先に「うちでは起きない理由」を探さない

他の現場の災害事例を見ると、

「うちはこの設備を使っていない」
「うちは足場解体をしない」
「うちの作業者は経験がある」

というように、 自分の現場との違いが 先に目に入ることがあります。

もちろん、 違いを確認することも必要です。

しかし最初から 「だからうちでは起きない」 と結論づけると、 共通する問題を見落とすかもしれません。

違うところだけでなく、 似ているところを一つ探してみる。

設備や工事が違っても、 作業条件や管理のしかたには 共通点があるかもしれません。

ヒヤリ・ハット事例でも同じことができる

「職場のあんぜんサイト」には、 労働災害事例だけでなく、 ヒヤリ・ハット事例も掲載されています。

墜落・転落、 転倒、 飛来・落下、 はさまれ・巻き込まれ、 感電・火災など、 さまざまな事故の型の事例を確認できます。

重大な結果になった事例だけでなく、 ヒヤリ・ハットについても 同じように 「自分の現場なら?」 と考える材料にできます。

▶ 職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例」を見る

前のページの「なぜ?」も使ってみる

自分の現場と似た条件を見つけたら、 さらに 「なぜその状態になるのか」 を掘ってみることもできます。

災害事例を読む
↓
自分の現場に似た条件を探す
↓
「なぜ?」を掘る
↓
自分の現場の対策へつなげる

▶ 「なぜ?」を掘ると事故の見え方はどう変わる?

▶ 災害事例研究を実際にやってみる

一つの事例を使って現場で確認してみる

確認してみること 確認
発生状況から事実を整理した □
掲載されている原因を見る前に、 自分たちでも問題点を考えた □
自分たちが考えた内容と 掲載されている原因・対策を比べた □
掲載事実と 自分たちの推測・置き換えを区別した □
設備名だけでなく、 災害に関係した条件を取り出した □
自分の現場に似た条件がないか探した □
自分の現場で変えられることを考えた □
対策を「誰が・いつ・どう確認するか」まで具体化した □

他の現場で起きた災害は、 その現場だけの過去の出来事として 読むこともできます。

しかし、 設備や作業名だけでなく、 どんな条件が重なっていたのかを見る。

そして、 「自分の現場に似た条件はないか」 を探してみる。

そうすることで、 一つの災害事例を まだ事故が起きていない自分の現場を 見るための材料 に変えることができます。

労働災害事例を探してみる

厚生労働省の 「職場のあんぜんサイト」では、 労働災害事例集、 死亡災害データベース、 労働災害(死傷)データベース、 ヒヤリ・ハット事例などを確認できます。

▶ 職場のあんぜんサイト「労働災害事例」を見る

建設業の災害防止に関する 通達や資料は、 厚生労働省の 「建設業における安全対策」から確認できます。

▶ 厚生労働省「建設業における安全対策」を見る

講習テキストでも確認できます

当協会の 「職長・安全衛生責任者教育」テキストでは、 災害調査・原因分析と 災害事例研究の進め方を解説しています。

▶ 災害調査、分析、対策の手順を見る

▶ 災害事例研究の進め方を見る


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