災害事例研究を実際にやってみる
職長・安全衛生責任者教育では、 実際に発生した労働災害を題材にして、 原因と防止対策を考える「災害事例研究」について学びます。
災害事例を見ると、 つい最初から「原因」や「対策」を読んでしまいがちです。
ここでは少し順番を変えて、 実際の事例について まず自分で考えてから原因と対策を見てみましょう。
災害事例研究は「4段階」で考える
災害事例研究では、 最初から答えを決めつけるのではなく、 順番に問題を整理していきます。
今回の事例|足場解体作業中の墜落
マンションの大規模修繕工事で、 足場の解体作業が行われていました。
被災者は、解体した足場材の受け渡し役として、 足場材を足場上で運んでいました。
荷降ろし役の作業員に足場材を渡したあと、 次の足場材を受け取るために足場上を移動した際、 足場から地上に墜落しました。
この現場では、足場上を移動する途中に親綱の中継点があり、 2丁掛けの墜落制止用器具のフックを 掛け替える必要がありました。
また、日没に差し掛かり、 足場の解体作業現場は薄暗くなり始めていました。
当協会「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育」テキスト掲載図
ここまでの情報から、 どこに問題がありそうか考えてみましょう。
第1段階|事実の確認
最初から原因を決めつけず、 まず何が起きたのかを整理します。
| 確認すること | 今回わかっていること |
|---|---|
| どこで | マンションの大規模修繕工事現場の足場上 |
| 何をしていた | 足場解体作業で、解体した足場材を受け渡していた |
| 何が起きた | 足場上を移動した際、足場から地上に墜落した |
| 作業条件 | 親綱に中継点があり、2丁掛けのフックを掛け替える必要があった |
| 周囲の状況 | 日没に差し掛かり、作業現場が薄暗くなり始めていた |
職長・安全衛生責任者教育のテキストでは、 事実を確認するときには5W1Hを使い、 必要に応じて現場の見取図や時系列も使って整理します。 また、人的・物的・管理的事実に分けて考えていきます。
ここで大切なのは、 確認できている事実と推測を分けることです。
第2段階|問題点の発見
次に、第1段階で確認した事実から、 基準から外れているところや問題になりそうな点を探します。
□ 2丁掛けのフックは適切に掛け替えられていたか
□ 暗くなり始めても作業を続けていたことに問題はなかったか
□ 手元や足元、親綱を十分に確認できる明るさだったか
□ 作業を監視する体制は十分だったか
第1段階で確認した事実を、 一つの原因だけに結びつけず、 いくつかの視点から見ていきます。
職長・安全衛生責任者教育のテキストでは、 事実を人的・物的・管理的事実に分けて考察し、 複数の根本的問題点について検討していきます。
第3段階|根本的問題点の決定
ここからは、 フルハーネス型墜落制止用器具特別教育のテキストに示されている 「原因として考えられる事項」を、 災害事例研究の第3段階に当てはめて確認してみます。
① 2丁掛けの墜落制止用器具が適切に使用されていなかったこと
親綱の中継点でフックを掛け替える際、 未使用側のフックを中継点の向こう側の親綱に掛ける前に もう一方のフックを外した、 または掛けたつもりのフックが 親綱に完全に掛かっていなかったことが考えられています。
② 薄暗くなり始めても作業を続けていたこと
親綱を十分に目視できなかったり、 布板の隙間につまずいたりするリスクが 高まっていた可能性があります。
③ 専任の監視人が不在だったこと
作業主任者が自ら作業を行いながら、 監視業務も行っていました。
墜落したという結果だけを見ると、 「フックを確実に掛けるよう注意する」 という対策だけを考えてしまうかもしれません。
しかし、この事例では 墜落制止用器具の使い方だけでなく、 作業環境や監視体制にも問題があったことが考えられています。
第4段階|対策の樹立
次に、同じ災害事例のテキストに示されている対策を、 災害事例研究の第4段階として確認してみます。
| 問題点 | 対策 |
|---|---|
| 2丁掛けの使用 | 適切な使用方法について教育し、 作業開始前に作業員同士で使用方法を確認する |
| 作業場所の明るさ | 日没間際まで作業を行わない、 または手元・足元が確実に見える照明設備を設ける |
| 監視体制 | 監視人が不在とならないよう連絡体制を強化する。 専任の監視人を置くことが難しい場合は、 副担当となる人員を複数選任する |
このように整理すると、 「本人に注意する」だけではなく、 作業環境や作業を管理する仕組みそのものを 見直す必要があることが見えてきます。
もし自分の現場だったら?
ここまでで終わらず、 今回の災害を自分たちの現場に置き換えてみます。
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 2丁掛けのフックを掛け替える場所で、 確実に使用できる状態になっているか | □ |
| 暗くなっても「あと少しだから」と作業を続けていないか | □ |
| 手元・足元や親綱を確実に確認できる明るさがあるか | □ |
| 監視する人が別の作業を行いながら監視していないか | □ |
他社で起きた災害でも、 一つひとつの条件を自分の現場に置き換えることで、 同じような問題がないかを確認する材料になります。
別の災害でもやってみる
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、 建設業を含む多くの労働災害事例が公開されています。
気になる事例を一つ選び、 原因や対策を読む前に、 まず次の順番で考えてみてください。
② 問題点の発見
③ 根本的問題点の決定
④ 対策の樹立
一度自分で考えてから公表されている原因や対策を見ると、 単に事例を読むだけとは違った見方ができます。
講習テキストでも確認できます
職長・安全衛生責任者教育のテキストでは、 災害事例研究の目的や4段階の進め方について 詳しく解説しています。
今回取り上げた墜落災害については、 フルハーネス型墜落制止用器具特別教育のテキストで 詳しい発生状況・原因・対策を確認できます。
受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています
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