カタログの「3軸合成値」からA(8)を計算してみる
振動工具のカタログを見ると、 「3軸合成値 12m/s²」 のような数字が書かれていることがあります。
では、 この数字だけを見れば、 その日の振動ばく露が大きいか小さいか判断できるのでしょうか。
実際には、 同じ工具でも 10分使うのと2時間使うのとでは、 身体が受ける振動ばく露は違います。
そこで使うのが 「日振動ばく露量A(8)」です。
ここでは、当協会の 「振動工具取扱作業者安全衛生教育」テキストと 厚生労働省の指針をもとに、 工具の3軸合成値と使用時間から A(8)を実際に計算してみます。
A(8)は「振動の大きさ」だけでは決まらない
工具に表示されている 3軸合成値は、 その工具から手や腕へ伝わる 振動の大きさを表す値です。
一方、 A(8)は、 その振動の大きさだけではなく、 1日にどのくらいの時間ばく露されたか を合わせて評価する値です。
振動の大きさ
実際に振動を受けた時間
つまり、 同じ工具でも使用時間が変われば、 A(8)も変わります。
そもそも「A(8)」の8とは?
A(8)の「8」は、 1日8時間を基準に換算した値 であることを表しています。
厚生労働省の指針では、 A(8)を 1日8時間の等価振動加速度実効値 として評価に用いています。
例えば、 実際に振動工具を使った時間が1時間であっても、 その1時間の振動ばく露を 8時間を基準とする共通の尺度へ換算することで、 工具や作業時間が違っても 比較しやすくなります。
実際の振動ばく露を、 1日8時間を基準とする共通の尺度に換算した値です。
A(8)の計算式
日振動ばく露量A(8)は、 次の式で計算します。
T:1日の振動ばく露時間[時間]
式だけを見ると難しそうですが、 必要なのは 「3軸合成値」と「振動ばく露時間」 の2つです。
実際に計算してみる
例えば、 カタログ等に次のように表示された工具を 使用するとします。
計算式へ入れてみます。
この場合、 1日の振動ばく露量A(8)は 約4.24m/s² となります。
4.24m/s²なら、どう判断する?
A(8)を計算したら、 次の2つの値と比べます。
| 基準 | A(8) | 考え方 |
|---|---|---|
| 日振動ばく露対策値 | 2.5m/s² | これを超える場合は、 振動ばく露時間の抑制や 低振動工具の選定などの対策に努める |
| 日振動ばく露限界値 | 5.0m/s² | これを超えないようにする |
先ほどの例は、
2.5m/s²
4.24m/s²
5.0m/s²
つまり、 限界値5.0m/s²は超えていませんが、 対策値2.5m/s²は超えています。
この場合には、 振動ばく露時間を短くしたり、 より振動の小さい工具を選んだりするなど、 振動ばく露を減らす対策に努めます。
A(8)が2.5m/s²を超える場合にも、 振動ばく露を減らすための対策に努めます。
同じ工具でも、使う時間でA(8)は変わる
では、 同じ12m/s²の工具について、 振動ばく露時間だけを変えてみます。
| 3軸合成値 | 振動ばく露時間 | A(8) |
|---|---|---|
| 12m/s² | 30分 | 約3.00m/s² |
| 12m/s² | 1時間 | 約4.24m/s² |
| 12m/s² | 1時間20分 | 約4.90m/s² |
| 12m/s² | 約1時間23分 | 約5.0m/s² |
同じ工具でも、 使用時間が長くなるほど A(8)は大きくなります。
前のページで計算した 3軸合成値12m/s²の 振動ばく露限界時間が約1時間23分 になるのも、 その付近でA(8)が5.0m/s²に達するからです。
使用時間が2倍なら、A(8)も2倍?
ここにも注意が必要です。
A(8)の式には 平方根(√) が入っています。
そのため、 振動ばく露時間を2倍にしたからといって、 A(8)が単純に2倍になるわけではありません。
A(8) ≒ 3.00m/s²
1時間にする
ただし、 時間を長くすれば 振動ばく露が増えることには変わりありません。
計算式や、 厚生労働省の計算テーブルを使って 確認します。
逆に、低振動の工具へ替えると?
今度は振動ばく露時間を同じ1時間として、 工具の3軸合成値を変えてみます。
| 3軸合成値 | 振動ばく露時間 | A(8) |
|---|---|---|
| 6m/s² | 1時間 | 約2.12m/s² |
| 8m/s² | 1時間 | 約2.83m/s² |
| 12m/s² | 1時間 | 約4.24m/s² |
| 15m/s² | 1時間 | 約5.30m/s² |
同じ1時間の作業でも、 工具の3軸合成値によって A(8)は大きく変わります。
例えば、 12m/s²の工具を6m/s²の工具へ変更すれば、 同じ1時間でも A(8)は約4.24m/s²から約2.12m/s²へ下がります。
できるだけ3軸合成値の小さい工具を選ぶことも、 振動ばく露を減らす方法です。
カタログの数字を見るときの注意
工具のカタログには、 振動に関する複数の数字が載っていることがあります。
A(8)の計算に使うのは、 「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」 です。
単なる振動数や 工具の回転数などを A(8)の計算式へ入れるわけではありません。
| 表示 | 見るポイント |
|---|---|
| 周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値 | A(8)の計算に使用する値 |
| 回転数 | 工具の回転速度を示す値であり、 そのままA(8)の計算には使わない |
| 振動数 | 振動の繰返しの速さを示す値であり、 3軸合成値とは別 |
A(8)は「何時間使ったか」の記録だけでもない
例えば、 二人の作業者が どちらも振動工具を1時間使用したとします。
一人は3軸合成値6m/s²の工具、 もう一人は15m/s²の工具を使っていれば、 同じ「1時間」でも 振動ばく露は大きく違います。
作業時間を管理するときには、 使用時間だけでなく、 使用した工具の3軸合成値もセットで見る ことが重要です。
厚生労働省の計算テーブルも使える
毎回、 電卓で平方根を計算する必要はありません。
厚生労働省では、 3軸合成値と振動ばく露時間を入力すると A(8)を確認できる 「日振動ばく露量A(8)の計算テーブル」 を公開しています。
1日に複数の振動工具を使用した場合についても、 それぞれの工具の値を入力して 合計の日振動ばく露量を求めることができます。
作業前にA(8)を確認してみる
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 使用する工具の3軸合成値を確認した | □ |
| 実際に振動へばく露される予定時間を確認した | □ |
| A(8)を計算した | □ |
| A(8)が2.5m/s²を超える場合、 ばく露を減らす対策を検討した | □ |
| A(8)が5.0m/s²を超えないように 作業時間を決めた | □ |
| より3軸合成値の小さい工具へ 変更できないか検討した | □ |
カタログにある3軸合成値は、 ただの製品スペックではありません。
実際の振動ばく露時間と組み合わせれば、 その日の振動ばく露をA(8)という数字で確認 できます。
1日に工具を2台使ったら?
ここまでは、 1日に1種類の振動工具を使う場合で考えました。
しかし実際の現場では、 午前中に電動ハンマー、 午後に別の振動工具というように、 1日に複数の振動工具を使う ことがあります。
その場合は、 それぞれのA(8)を単純に足せばよい、 というわけではありません。
次は、 複数の振動工具を使った日の 合計の日振動ばく露量 を計算してみます。
講習テキストでも確認できます
当協会の 「振動工具取扱作業者安全衛生教育」テキストでは、 3軸合成値、 日振動ばく露量A(8)の計算方法、 日振動ばく露対策値・限界値について解説しています。
厚生労働省の指針でも、 3軸合成値と1日の振動ばく露時間から A(8)を算出し、 振動ばく露を管理することとしています。
▶ 「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」を見る
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