個人事業者等への安衛法拡大で何が変わる?
建設現場では、 会社に雇用されている労働者だけでなく、 一人親方などの個人事業者が 同じ場所で作業することがあります。
これまで労働安全衛生法は、 主として 「職場における労働者の安全と健康を確保する法律」 として整備されてきました。
しかし近年、 労働者と同じ場所で働く個人事業者等についても 保護措置の対象が広がり、 さらに令和7年(2025年)の法改正によって、 個人事業者等自身にも一定の義務が課される仕組み が段階的に整備されています。
では、 一人親方などの働き方は、 具体的に何が変わるのでしょうか。
ここでは、厚生労働省の最新資料をもとに、 個人事業者等に関する労働安全衛生法の改正を 建設現場に置き換えて整理してみます。
まず「個人事業者等」とは?
改正労働安全衛生法では、 「事業を行う者で、労働者を使用しないもの」 を「個人事業者」として位置づけています。
仕事を請け負っているかどうかだけではなく、 労働者を使用しているかどうか がポイントになります。
建設業で身近な例が、 一人親方です。
また、今回の安全衛生対策では、 個人事業者だけでなく、 中小事業の事業主や役員なども含めて 「個人事業者等」として保護・規制の対象となる措置があります。
雇用される労働者と
個人事業者等という立場の違いが
なくなったわけではありません。
今回の改正は、
労働者と同じ場所で働く個人事業者等についても
災害防止の仕組みに取り込んでいくものです。
なぜ個人事業者等まで対象が広がった?
同じ建設現場で作業していれば、 雇用されている労働者であっても、 一人親方であっても、 墜落、飛来・落下、機械との接触など 同じ危険にさらされることがあります。
また、 複数の会社や個人事業者が同時に作業する現場では、 自分の作業だけでなく、 他の作業によって生じる危険 にも影響を受けます。
こうした状況を踏まえて、 個人事業者等への安全衛生対策は 段階的に拡大されてきました。
| 施行時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2023年4月 | 危険有害作業を請け負わせる一人親方等や、 同じ作業場所にいる労働者以外の人について、 有害物質等による健康障害を防止するための 一定の保護措置を拡大 |
| 2025年4月 | 危険箇所への立入禁止や退避など、 作業場所に起因する危険を防止するための 一定の保護措置を拡大 |
| 2025年5月14日 |
改正労働安全衛生法を公布。 注文者等が施工方法や工期等について 安全衛生を損なう条件を付さないよう配慮する規定などを 整理・明確化 |
| 2026年4月1日 | 建設業等の元方事業者が行う 統括管理などの対象に、 個人事業者等を含める |
| 2027年1月1日 | 個人事業者等について、 休業4日以上の死傷災害等を把握・報告する制度 を開始 |
| 2027年4月1日 |
労働者と同じ場所で作業する個人事業者等自身について、
機械等の使用、定期自主検査、
危険・有害業務に関する安全衛生教育などの義務を開始。 あわせて、業種を問わず 混在作業場所を管理する事業者による 連絡調整の仕組みも開始 |
つまり、 一度にすべてが変わったのではなく、 数年かけて段階的に対象が広げられている ということです。
2026年4月から、建設現場の統括管理にも入った
建設現場では、 元請と複数の下請が 同じ場所で作業することがあります。
こうした 「混在作業」では、 一つの作業が別の作業へ影響し、 災害につながることがあります。
そのため、 建設業の元方事業者等には、 作業間の連絡調整など 混在作業による災害を防ぐための措置が求められています。
令和8年(2026年)4月1日からは、 こうした統括管理の対象に 個人事業者等も明確に含まれる ようになりました。
個人事業者等についても、 元方事業者が講じる措置に応じて 必要な措置を講じること などが求められます。
同じ場所で作業する以上、 混在作業による災害を防ぐための 連絡調整や必要な措置の中に 個人事業者等も位置づけられています。
「守ってもらう側」だけではない
今回の改正で重要なのは、 個人事業者等が 保護される対象になるだけではない ことです。
令和9年(2027年)4月1日からは、 労働者と同じ場所で作業する個人事業者等自身 にも一定の義務が課されます。
| 個人事業者等自身に関係すること | 内容 |
|---|---|
| 機械等の使用 | 構造規格や必要な安全装置を 備えていない機械等を使用しない |
| 定期自主検査 | 車両系建設機械や移動式クレーン等、 対象となる機械について 必要な定期自主検査等を行う |
| 危険・有害業務 | 特別教育の対象となる危険・有害業務を行う場合、 必要な特別教育を受講する |
労働者の場合には、 その労働者を使用する事業者に 特別教育を行う義務があります。
一方、 労働者を使用しない一人親方については、 同じ形の義務が直接かかっていないものがありました。
令和9年4月からは、 労働者と同じ場所で対象となる危険・有害業務を行う場合には、 個人事業者等自身が 必要な特別教育を受けること が義務になります。
一人親方が特別教育を受けることは、
これまでも現場のルールなどによって
求められることがありました。
令和9年4月からは、
法令で対象となる危険・有害業務について、
一定の場合に個人事業者等自身にも
受講義務が課されます。
仕事中の災害を報告する制度もできる
労働者が仕事中に死亡したり、 一定の日数以上休業する災害が発生した場合には、 労働者死傷病報告の制度があります。
一方、 個人事業者等の業務上災害については、 同じような形では十分に把握されてきませんでした。
そこで令和9年(2027年)1月1日から、 個人事業者等の休業4日以上の死傷災害について、 労働基準監督署へ報告する仕組み が始まります。
この報告義務の対象となるのは、 原則として、 個人事業者等が災害発生場所で 労働者と同じ場所で就業していた場合です。
誰が監督署へ報告する?
ここは、 労働者死傷病報告とは少し仕組みが異なります。
個人事業者等が災害の事実を伝えられる場合には、 まず 「特定注文者」 などへ必要な内容を伝え、 その報告を受けた特定注文者等が 労働基準監督署へ報告します。
「特定注文者」とは、 個人事業者等へ仕事を注文した者のうち、 災害発生場所で業務を行っている 直近上位の注文者です。
特定注文者が存在しない場合には、 災害発生場所を管理する事業者が 報告主体となる場合があります。
また、 個人事業者等が 中小事業の事業主や役員である場合には、 所属する企業が報告します。
仕事の注文関係や 災害発生場所の管理関係によって、 誰が監督署へ報告するかが決まります。
元請だけ、個人事業者だけの話でもない
今回の改正は、 「元請の責任が増えた」 あるいは 「一人親方の義務が増えた」 という一方向の話ではありません。
同じ場所で複数の立場の人が作業する場合には、 それぞれに役割があります。
| 立場 | 見るポイント |
|---|---|
| 注文者・元方事業者等 | 施工方法・工期等への配慮、 混在作業の連絡調整、 必要な保護措置など |
| 関係請負人 | 自社の作業と他の作業との関係を確認し、 必要な措置や連絡調整を行う |
| 個人事業者等 |
現場の立入禁止等の措置を守り、
統括管理上必要となる措置を講じる。 対象となる場合には、 自らに課される機械・検査・教育等の義務も確認する |
つまり、 同じ作業場所にいる人を、 雇用形態だけで切り分けない方向へ 制度が変わっている と見ると分かりやすくなります。
一人親方なら、何を確認すればよい?
実際に建設現場へ入る一人親方であれば、 まず次の点を確認してみます。
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 現場で行われている作業間の連絡調整の方法を確認した | □ |
| 立入禁止、退避など、 現場で講じられている措置を確認した | □ |
| 自分が使用する機械等について、 必要な安全装置や検査を確認した | □ |
| 自分が行う作業に、 特別教育の対象となる危険・有害業務があるか確認した | □ |
| その措置が現在すでに施行されているのか、 今後施行されるものなのか確認した | □ |
どこで、誰と一緒に、 どのような作業をするのかによって、 受ける保護措置や 自ら確認すべき義務が変わります。
次は「自分が対象になる場面」を確認する
今回の改正は、 個人事業者であれば いつでもすべての規定が一律に適用される、 というものではありません。
特に令和9年(2027年)4月からの 個人事業者等自身への機械・教育等の義務では、 「労働者と同じ場所で作業を行う場合」 という条件が重要になります。
同じ一人親方でも、 作業場所や仕事の受け方によって 関係する規定は変わります。
公的資料でも確認できます
厚生労働省では、 個人事業者等に対する安全衛生対策について、 法改正の内容や施行時期、 関連資料をまとめて公開しています。
建設現場で複数の事業者が作業する 「混在作業」の基本的な考え方は、 当協会の職長・安全衛生責任者教育テキストでも確認できます。
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