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【第2章】第4節 健康管理(1)

1. 健康診断結果に基づく対応等

 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条、第44条及び第45条に基づく健康診断の項目には、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患と密接に関係した血糖検査、尿検査、血圧の測定、既往歴の調査等が含まれていること及び労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の4及び第66条の5に基づき、異常所見があると診断された場合には医師等の意見を聴き、当該意見を勘案して、必要があると認めるときは、事業者は、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずることが義務付けられていることに留意の上、これらの徹底を図ってください。

 また、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等の労働者については、事業者は、高温多湿作業場所における作業の可否、当該作業を行う場合の留意事項等について産業医、主治医等の意見を勘案して、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講じてください。


(1) 糖尿病

 血糖値が高い時は血液が濃縮された状態で身体のバランスを取るために多量の水分が必要になります。また尿に糖が漏れ出してしまう状態では糖と一緒に水分も尿に出てしまいます。そのため、糖尿病の患者はすぐに喉が渇き、水分を多く欲しがり尿量が多くなることがあります。

 このため、糖尿病は自覚症状がなくても血糖値が上がっていることが多く、十分な水分補給がないまま、知らないうちに脱水症状になっていることが多く見られますので糖尿病の労働者の高温多湿作業場所における作業においては十分な注意が必要です。

(2) 高血圧症心臓病や腎臓病

 高血圧症や心疾患で治療している場合には体内に水分がたまり心臓の負担を軽減するため、水分を体外に強制的に排泄する利尿剤を内服していることがあります。利尿剤で脱水状態になっている他、ナトリウムも一緒に排泄する作用により熱中症になりやすい状態になっていることがあります。

 なお利尿剤を必要とする病態は水分や塩分の補給に制限があることが多く、熱中症を回避する行動が取りにくいことがあります。血管を広げる薬を内服している場合には軽度の脱水でも一過性の脳虚血(立ちくらみ等)を起こしやすくなります。

 また、慢性腎不全があると水分や塩分の利尿排泄量のコントロールが不適切になることがあります。高血圧・心疾患や腎不全の治療中の労働者の場合は高温多湿作業場所における作業においては十分な注意が必要です。

(3) その他皮膚疾患、精神・神経疾患

 広範囲の皮膚疾患があると、発汗がうまくいかず体温調節に支障をきたすことがあります。精神疾患があると自律神経のコントロールがうまくいかない場合には体温調節に支障をきたすことがあります。

 また自律神経に影響のある薬(パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬など)を内服する場合には、発汗及び体温調節が阻害される恐れがあります。皮膚疾患や精神疾患を治療中の労働者については高温多湿作業場所での作業は十分な注意が必要です。

2. 日常の健康管理等

 高温多湿作業場所で作業を行う労働者については、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意の上、日常の健康管理について指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行ってください。これを含め、労働安全衛生法第69条に基づき健康の保持増進のための措置に取り組むよう努めてください。

 さらに、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等である場合は、熱中症を予防するための対応が必要であることを労働者に対して教示するとともに、労働者が主治医等から熱中症を予防するための対応が必要とされた場合又は労働者が熱中症を予防するための対応が必要となる可能性があると判断した場合は、事業者に申し出るよう指導してください。


 次に労働者の健康状況等の確認のポイントは以下の通りです。

(1) 風邪気味など体調不良ではないか?

 風邪気味だと鼻が詰まって就寝中に口で呼吸することが多く、外気に接する粘膜面積が増えて不感蒸泄量が増えることがあります。また発熱があると就寝中に汗を余計に書くことでやはり不感蒸泄量が増えることがあります。さらに下痢や嘔吐があると身体に必要な水分が失われてしまいます。

 特に下痢や嘔吐は塩分(ナトリウム)など電解質も失われてしまいます。これらの体調不良は、体内の水分や塩分が喪失するため、普段よりも脱水状態が著しくなり、熱中症になりやすいと言えます。

(2) 前日に飲酒が多くなかったか?

 大量に飲酒した翌日の起床時には、いつも以上に喉が渇いています。アルコールはその分解に水分を多く使うことに加え、尿を多く出す作用(利尿作用)があります。前日に飲酒量が多かった時は翌日の起床時には普通よりも脱水状態になっており十分な注意が必要です。

(3) 朝食を抜いていないか?

 一般的に、起床時にすでに脱水状態になっているので、その改善には起床後に水分をとることが重要です。朝食をしっかりとると水分だけでなく塩分もとることができます。もちろん糖質やタンパク質やビタミン類も含まれています。

 米食は水分が多く含まれており、主成分のでんぷん質は体内で分解されて最終的に水分と二酸化炭素になります。又朝食は汗で失う塩分をあらかじめ補っておくことにもなります。暑い日が続くといわゆる夏バテになり、朝食をとらない人が増加する傾向があります。

 特に熱中症嘔吐になる危険性がある作業に従事する予定の人は必ず朝食をとることが重要です。

(4) 寝不足ではないか?

 睡眠は脳や身体を休息させる大切な役割があります。その脳が疲労したままですと働きが鈍くなり、注意力や集中力が低下するとともに、暑熱にさらされた身体の体温コントロールが難しくなって熱中症にかかりやすくなる可能性があります。

 「寝不足の日の前夜は熱帯夜で苦しかった」という場合も考えられます。そのような場合は就寝中の発汗量が多く、また普段よりも起床時の脱水状態が著しく、熱中症にかかりやすくなっています。

 また無理に起きているために、夜間に利尿作用を持つコーヒー紅茶緑茶など、カフェインを含む嗜好品を多く取ることがあります。 そのような場合の翌朝には普段以上に脱水状態となっている可能性があります。

3. 労働者の健康状態の確認

 作業開始前に労働者の健康状態を確認してください。作業中は巡視を頻繁に行い、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認してください。また、複数の労働者による作業においては、労働者にお互いの健康状態について留意させてください。


(1) 高齢者と初めての作業従事

 加齢に伴い体内の水分の割合や感覚機能が低下して喉の渇きを感じにくくなります。高齢者は水分不足に陥りやすいことを十分に配慮して喉が乾かなくても定期的に水分を取らせます。特に高齢者、初めて作業に従事する者等については脱水状態でも自覚症状が少ない場合があるので十分な水分・塩分の定期的な補給についての指導が必要です。

(2) 高湿度や高負荷の作業

 高温であるか否かに限らず湿度が高いと汗が蒸発せず体から熱を放散できない事態が起こります。汚染物質の除去などで不浸透性の保護衣を着ていると、体内で発生した熱を逃がせなくなります。肥満者が階段昇降を繰り返すなど自重により負荷が大きい場合も体内での熱産生が増えます。

(3) 自発的脱水

 作業で大量に発汗した際に、塩分が含まれていない飲料を飲むと、脱水状態が改善しないことがあります。その理由は、大量の水分と塩分が減った状態に水だけを補給すると、図表26のように元の体液量に戻る前に体液の濃度が正常化して飲水欲求が止まるからです。

 そのため、 発汗で失われた体液量が回復しないままに喉の渇きが消失し、自覚症状もなく、その後に高温多湿作業場所の作業を継続すると、脱水状態が進行することになります。これを自発的脱水と言います。

 自発的脱水を予防するためには 、水分だけでなく塩分も合わせて補強することが必要です。スポーツドリンクを飲むのは便利ですが種類によってナトリウムが含まれていないものがあります。また、スポーツドリンクによって糖分が多いものは血液が体液よりも濃くなるので、作業の合間に飲む場合には注意が必要です。飲む前に成分と含有量を確認してください。

図表26 自発的脱水発生の概念図 資料:職場における熱中症予防対策マニュアル 厚労省

(4) 自覚症状が出る前の定期的な水分塩分の補給

 脱水状態の自覚症状には喉が渇く、唾液分泌が減少することで起こる口腔内の乾燥感、尿量の減少、体内や心拍数の増加などがあります 。しかしこれらは脱水による体重減少が2から5%になると自覚されるものであり、自覚した時には相当の脱水状態になっています。

 さらに脱水が進むと発汗量が減少することによる皮膚の乾燥、視力聴力の低下、脱力感、倦怠感を自覚するようになります。このレベルに至ると相当に危険であり、「意識喪失」をきたすこともあります。脱水による体重減少が10%を超えると、もはや体温調節ができず死に至る危険性が高くなります。作業前の体重から1.5%を超える現象があれば危険と言われています。

 このようなことから熱中症の予防のためには自覚症状がなくても定期的に水分・塩分の補給が必要です。発汗は流れ落ちたり、蒸発したりするため、この量の把握は通常困難であり、発汗量に応じた水分塩分の摂取は困難です。また作業開始前後にも摂取することが必要です。

図表27 給水管理表のサンプル 資料 沖縄土木施工管理技士会

(5) 人間は寝ている間にも水分が減る

 就寝直前の体重は起床直後よりもわずかに減っています。これは汗腺からの水分蒸発や呼気に含まれる水分などによる減少です。通常の室内で平熱の人だとすると、その人の体重を考慮して概ね0.5ml/kg/時間程度になります。

 これは体重60 kg の人が6時間寝たら0.5×60×6=180mlの水分が失われることになります。さらに起床後は寝ている間に溜まった尿を排泄します。これは起きている時と同じくらいの量とすると、おおよそ1ml/kg/時間となりに、体重60kgの人が6時間寝た場合は1x60x6=360mlの水分が尿になるわけです。

 合計すると普通に寝ているだけでも、約500mlもの水分が体から失われていることになります。つまり起床時は既に少し脱水状態になっています。

 

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