フルハーネスは『着ける』だけではない―取付位置と落下距離
フルハーネス型墜落制止用器具は、 正しく装着することが基本です。
しかし、 「フルハーネスを着けて、フックを掛けている」 だけで、十分とは限りません。
同じランヤードを使用していても、 フックをどの高さに取り付けるかによって、 墜落したときの落下距離は変わります。
ここでは、当協会の 「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育」テキストをもとに、 取付位置と落下距離の関係を見てみます。
フックを掛ける高さで何が変わる?
まず、同じ作業者が同じランヤードを使用するとして、 フックの取付位置だけを変えて考えてみます。
| フックの位置 | 墜落したとき |
|---|---|
| 高い位置 | 墜落を始めてからランヤードが張るまでの距離が短くなり、 自由落下距離を小さくできます。 |
| 腰付近 | 取付位置が低くなる分、 自由落下距離が大きくなります。 |
| 足元付近 | さらに自由落下距離が大きくなります。 足元に取り付ける必要がある作業では、 器具の選定も変わります。 |
自由落下距離が小さくなりやすい
墜落制止用器具を使用するときは、 取付設備について できるだけ高い位置のものを選ぶことが基本です。
「自由落下距離」と「落下距離」は違う
ここで二つの言葉を確認しておきます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 自由落下距離 | 墜落を始めてから、 ランヤードなどによって墜落を制止する作用が始まるまでに 落下する距離 |
| 落下距離 | 自由落下距離に、 墜落を制止するときに生じる ランヤード、ショックアブソーバ、フルハーネス等の 伸びを加えた距離 |
つまり、 ランヤードが張った瞬間に身体が止まるわけではありません。
ショックアブソーバが伸びて衝撃を緩和したり、 ハーネスやランヤードにも伸びが生じたりするため、 実際に身体が停止するまでには、さらに距離が必要になります。
自由落下距離を計算してみる
フルハーネス型の場合、 自由落下距離は次のように考えます。
この式を見ると、 フックを掛ける位置が低くなるほど、 自由落下距離が大きくなる理由が分かります。
テキストの標準的な条件で計算してみる
厚生労働省のガイドラインでは、 建設作業等における一般的な使用条件の例として、 次の数値が示されています。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| D環の高さ | 1.45m |
| フックの取付高さ | 0.85m |
| ランヤードの長さ | 1.7m |
これを先ほどの式に当てはめると、
この条件では、 身体が墜落を始めてから 約2.3m自由落下した後に、 墜落を制止する作用が始まることになります。
それでも、2.3mで止まるわけではない
先ほどの2.3mは 「自由落下距離」です。
実際には、そこから ショックアブソーバやフルハーネス等が伸びながら 墜落を制止します。
同じ標準的な条件では、 第一種ショックアブソーバの伸びの最大値を1.2m、 フルハーネス等の伸びを1m程度として考えています。
これは、厚生労働省のガイドラインに示されている 一般的な使用条件の数値を単純に合計した例です。
実際の落下距離は、 使用するランヤードやショックアブソーバ、 取付位置、作業者の条件などによって異なるため、 使用する製品に表示された落下距離を確認します。
「フルハーネスだから大丈夫」と考えるのではなく、 作業する高さに対して、 墜落したときに地面や下方の構造物へ接触しないかまで 確認する必要があります。
フックを足元に掛けるとどうなる?
鉄骨組立て作業などでは、 作業の状況によって フックを足元付近へ取り付ける必要がある場合があります。
この場合、 D環よりフックの位置が大きく下がるため、 自由落下距離が大きくなります。
ショックアブソーバ
ショックアブソーバ
腰の高さ以上にフックを掛けて作業できる場合は 第一種ショックアブソーバを選定します。
一方、 足元にフックを掛ける必要がある場合は、 フルハーネス型と 第二種ショックアブソーバを選定します。
腰以上と足元の両方に掛ける作業が混在する場合も、 第二種を選定します。
だから「できるだけ高い位置」に掛ける
墜落制止用器具の使用方法について、 厚生労働省のガイドラインでは、 取付設備はできるだけ高い位置のものを選ぶ こととしています。
協会テキストでも、 フックは墜落時の衝撃を抑えるため、 腰より上の高い位置に取り付けることを説明しています。
ただし、 「高ければどこでもよい」わけでもありません。
取付設備は、 墜落制止時の衝撃に十分耐えられる 堅固なものである必要があります。
強度が判断できない設備に、 安易にフックを取り付けることはできません。
親綱を使う場合も位置を見る
水平親綱を使用する場合には、 原則として、 ランヤードとフルハーネスを結合する環より 高い位置に親綱を張って使用します。
作業場所の構造上、 低い位置に親綱を設置する場合には、 短いランヤードや ロック機能付き巻取り式ランヤードを使用するなど、 落下距離を小さくする措置を講じます。
ロック機能付き巻取り式ランヤードは、 通常のランヤードより落下距離を短くできるため、 作業場所の高さが比較的低い場合にも 使用が推奨されています。
実際の作業場所で確認してみる
フルハーネスを装着したら、 器具だけを見るのではなく、 実際に作業する場所と合わせて確認してみます。
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| フックを掛ける設備の位置を確認した | □ |
| できるだけ高い位置にフックを掛けられるか確認した | □ |
| 取付設備に墜落時の衝撃へ耐えられる強度があるか確認した | □ |
| 使用するランヤードに表示された落下距離を確認した | □ |
| 足元へフックを掛ける作業があるか確認した | □ |
| 墜落した場合でも、 地面や下方の構造物へ接触しないだけの距離があるか確認した | □ |
「フルハーネスを着けたか」から、 「どこに掛けて、どこまで落ちる可能性があるか」へ。
取付位置と落下距離まで考えることで、 墜落制止用器具の選び方や使い方が より具体的に見えてきます。
講習テキストでも確認できます
当協会の 「フルハーネス型墜落制止用器具特別教育」テキストでは、 自由落下距離・落下距離の考え方や、 ランヤードの選定、 取付設備への取付方法について詳しく解説しています。
厚生労働省のガイドライン原文でも、 自由落下距離・落下距離、 ショックアブソーバやランヤードの選定について確認できます。
▶ 厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」を見る
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