外国人への教育は「翻訳」すれば十分?
外国人作業者が建設現場へ入ることになったので、 日本語の資料を外国語へ翻訳した。
これで、 安全衛生教育は十分なのでしょうか。
もちろん、 本人が理解できる言語で説明することは とても重要です。
しかし、 文章を外国語へ置き換えただけでは、 現場で必要なことまで 正しく伝わっているとは限りません。
ここでは、 厚生労働省の外国人労働者向け資料と、 当協会の職長・安全衛生責任者教育テキストをもとに、 外国人作業者への教育で 「伝えた」の先に何を確認するか を考えてみます。
安全衛生教育は「理解できる方法」で行う
厚生労働省は、 外国人労働者に安全衛生教育を行う場合には、 母国語等を用いる、 視聴覚教材を用いるなど、 本人がその内容を確実に理解できる方法 で行うことを示しています。
特に、 外国人労働者に使用させる 機械等や原材料等の危険性・有害性、 その取扱方法等については、 確実に理解されるよう留意することとされています。
また、 機械設備、安全装置、保護具などについても、 実際に使用する方法が 確実に理解できていることが重要です。
教育の目的は、 資料を渡すことではなく、 実際の作業で必要な行動ができるようにすることです。
教育する前に「どのくらい日本語が分かるか」を確認する
外国人労働者といっても、 日本語の理解度は一人ひとり異なります。
厚生労働省の 「外国人労働者安全衛生管理の手引き」では、 安全衛生教育を行う際に、 外国人労働者の日本語の理解度を把握する ことも示されています。
同じ国の出身者であっても、 日本で働いた期間や 建設現場での経験によって、 理解できる言葉は違います。
では、翻訳だけでは何が足りない?
例えば、 文章としては正しく翻訳されていても、 作業者がその作業を 一度も見たことがなければ、 内容をイメージしにくい場合があります。
また、 現場独特の合図や 機械の操作方法、 立入禁止区域などは、 文章だけよりも 写真、イラスト、動画などの視覚情報 を組み合わせた方が 理解しやすいことがあります。
必要に応じて、 実物を見せたり、 実際に操作・装着してもらったりすることも、 理解を確認する一つの方法です。
| 伝える方法 | 使い方の例 |
|---|---|
| 母国語等の文章 | 作業内容や注意事項を 理解できる言葉で説明する |
| 写真・イラスト | 危険箇所、 正しい状態と誤った状態を見せる |
| 動画 | 作業の流れや 機械・工具の取扱いを確認する |
| 実物・実演 | 保護具や機械を 実際に操作・装着しながら理解を確認する |
一つの方法だけに頼らず、 言葉と視覚情報を組み合わせ、 必要に応じて実物でも確認する ことで、 理解状況を確認しやすくなります。
日本語を全部なくせばよいわけでもない
外国人作業者への教育というと、 「すべて母国語へ翻訳する」 と考えがちです。
しかし、 実際の建設現場では 日本語による指示や合図が 使われることがあります。
そのため厚生労働省は、 外国人労働者が 労働災害防止のための指示等を 理解できるようにするため、 必要な日本語や 基本的な合図等を習得させるよう努める ことも示しています。
例えば、 「止まれ」「入るな」 といった 労働災害防止のために必要な言葉や、 共同作業で使う基本的な合図です。
教育内容は理解できる方法で伝えながら、 現場で実際に必要になる日本語や合図についても 分かるようにしておきます。
標識も「日本語が読める前提」にしない
建設現場には、 さまざまな標識や掲示があります。
例えば、 立入禁止、 感電注意、 墜落注意などです。
表示が日本語だけの場合、 日本語に十分慣れていない作業者には 意味が伝わらないことがあります。
厚生労働省は、 労働災害防止に関する標識、掲示、表示等について、 図解等を用いる、 母国語で注意喚起語を表示するなど、 外国人労働者が内容を理解できるようにする ことを示しています。
「分かりましたか?」だけで確認しない
教育の最後に、 「分かりましたか?」 と聞いたとき、 作業者が「はい」と答えたとします。
しかし、 それだけで本当に理解できているかは 分かりません。
厚生労働省の手引きでも、 安全衛生教育の理解度を確認しながら、 継続的に教育を繰り返すことが望ましい とされています。
理解度を確認する方法の一つとして、 本人に実際にやってもらう方法があります。
| 教育したこと | 理解を確認する例 |
|---|---|
| 保護具の使用方法 | 本人に実際に装着してもらう |
| 機械の停止方法 | 停止操作を実際に行ってもらう |
| 立入禁止区域 | 図や現場を見ながら 入ってはいけない場所を示してもらう |
| 緊急時の行動 | どこへ退避し、 誰へ連絡するか説明してもらう |
このように、 説明する → 本人にやってもらう → 必要ならもう一度説明する という流れにすると、 理解できていない部分を見つけやすくなります。
特に機械、安全装置、保護具などは、 実物や実演も使いながら確認すると 理解状況を把握しやすくなります。
建設現場では、新規入場時の教育も重要
建設現場では、 新たに現場へ入る作業者に対して 新規入場者教育 が行われています。
当協会の職長・安全衛生責任者教育テキストでは、 現場の状況、現場ルール、 作業に必要な事項などについて、 作業を開始する前に教育しておくことが必要 と説明しています。
外国人作業者の場合にも、 一般的な教材を見せるだけでなく、 その現場で実際に必要になる情報 へ結びつけて確認します。
| 現場で確認すること | 例 |
|---|---|
| 危険箇所 | 開口部、重機作業区域、 立入禁止区域など |
| 現場ルール | 通路、立入場所、 休憩場所など |
| 共同作業 | 合図、 作業間の連絡方法 |
| 緊急時 | 退避場所、 連絡先、 異常時の行動 |
厚生労働省には建設業向けの多言語教材がある
こうした教育用の資料を すべて各事業場で一から翻訳・作成する必要はありません。
厚生労働省では、 建設業に従事する外国人労働者向けの 動画・テキスト教材 を公開しています。
現在、 日本語を含む 11言語で公開されています。
教材は、 建設現場全般、メンタルヘルス対策、 熱中症対策、電離放射線障害防止対策の 共通事項と、 建設業の7つの業務に分かれています。
7つの業務には、 それぞれ5つの作業別教材があり、 従事する業務や作業内容に合わせて 選択して使用できます。
▶ 厚生労働省「建設業に従事する外国人労働者向け教材」を見る
担当する業務や その日に確認したい作業に合わせて、 該当する教材を選ぶことができます。
教材は「必要な教育の代わり」ではない
ここで一つ注意があります。
多言語教材は、 外国人作業者へ内容を分かりやすく伝えるための 有効な教材ですが、 法令で必要とされる教育そのものを すべて置き換えるものではありません。
雇入れ時等の教育や、 特別教育が必要な業務などについては、 それぞれ必要な教育内容・時間等を確認したうえで、 多言語教材を活用します。
必要な教育の中で、 内容を確実に理解してもらうための教材として活用します。
朝礼や作業前の確認にも活用できる
多言語教材は、 一度教育したら終わりにせず、 日々の作業前に 内容を思い出してもらうためにも活用できます。
例えば、 その日に行う作業に合わせて 該当する教材を選び、 朝礼や作業前のミーティングで 写真や動画を見ながら確認する方法です。
次のページでは、 厚生労働省の多言語教材から その日の作業に合うものを選び、 日々の作業前確認へ活用する方法 を一つの例として見てみます。
外国人作業者への教育を確認してみる
| 確認してみること | 確認 |
|---|---|
| 本人の日本語の理解度を確認した | □ |
| 本人が内容を理解できる言語・方法で教育している | □ |
| 写真、イラスト、動画等も活用している | □ |
| 機械、安全装置、保護具等の使い方を 本人が理解しているか確認した | □ |
| 現場で必要な日本語や基本的な合図を確認した | □ |
| 標識・掲示が本人にも理解できるようになっている | □ |
| その現場固有の危険箇所やルールを説明した | □ |
| 理解度を確認し、 必要に応じて繰り返し説明した | □ |
翻訳は、 外国人作業者への教育の「ゴール」ではなく、 理解してもらうための手段の一つです。
本人が理解できる方法で説明し、 実際の現場、機械、保護具、合図へ結びつけ、 理解できているかまで確認する。
そこまで行って、 初めて教材が 現場で使える知識につながります。
公的資料でも確認できます
厚生労働省では、 外国人労働者の安全衛生管理について、 手引き、多言語教材、技能講習補助教材、 注意喚起用のイラスト・表示などを まとめて公開しています。
受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています
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