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4-1 指導および教育方法

(1)指導および教育の意義・目的と種別

過去の事故や労働災害の原因を分析すると、機械・設備の操作方法や作業手順がよく分からなかった、使用材料などの有害性を知らなかった、少しの間なので保護具を使用しなかったなど、作業者の不安全行動が非常に多く見受けられます。

このため、機械設備や作業環境全般の安全化に努める一方で、人の行動により発生する災害の防止が重要な課題となっています。この人的安全対策の柱となるものが指導および教育です。

不安全状態と不安全行動

一般に災害の直接原因は「不安全な状態」と「不安全な行動」と分析されており、さらに「不安全な行動」は次の4つに分類されます。

  イ)知らなかった (知識不足や間違った方法が身についている)

  ロ)できなかった (機械の操作や危険の回避手段に関する技術不足など)

  ハ)やらなかった (過信や意識不足などで、すべきことを故意に怠る)

  二)ヒューマンエラー (うっかり、ぼんやりなどにより予期せぬ結果を生む)


従って、災害防止のためにはこれらに対する教育が必要です。

また、一度教育したから全て実行されるとは限りませんので、繰り返しの教育や、職長等による状況に応じた指導が求められます。

「指導」とは文字通り「指し示して導く」ということであり、「指し示す」のは作業を進めていくうえでの基準・規範・各種のルールです。「指導」と「教育」は補完関係であり、教育はその後の適切な指導があって活かされますし、また、現場で指導すべきことは教育すべき内容ともなり得ます。

不安全行動防止のための教育

(2)安全教育の種類

労働者に対する安全衛生教育や訓練については、法令上実施することが義務付けられているものと、法定教育以外で事業者が実施すべき教育として要綱等で示されているもの、及び各々の事業者が自主的に実施するものがあります。

いずれの場合も、労働者に対する教育の実施義務は事業者にありますが、例えば、現場で使用する機械設備や工具に関すること、それらを使う作業の手順など、内容によっては職長等が直接教育を行うことも考えられます。


●安衛法に基づく教育等

 1)雇い入時の安全衛生教育 (同法第59条第1項、安規則第35条)

 2)作業内容変更時の安全衛生教育 (同法第59条第2項、安規則第35条)

注)「作業内容を変更したとき」とは、異なる作業に転換をしたときや作業設備、作業方法等について大幅な変更があつたときをいい、これらについての軽易な変更があつたときは含まない趣旨であること。(施行通達)

雇い入れ時及び作業内容変更時の安全衛生教育の内容

 3)特別教育(同法第59条第3項、労働安全衛生規則第36条、安全衛生特別教育規程)
対象業務の例:研削といしの取替・試運転業務、足場の組立て等の業務、フルハーネス型墜落制止用器具を使用する一定の業務、石綿取扱業務、酸素欠乏等に関する業務など各種。

 4)職長教育 (同法第60条、安衛令第19条、安衛則第40条、『建設業における安全衛生責任者に対する安全衛生教育の推進について』)

 5)労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育(同法第19条の2)
安全管理者・衛生管理者・作業主任者・安全衛生推進者など、法で定める安全衛生に関する職に就いている者に対する、一定期間(概ね5年程度)経過後の再教育。『労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育に関する指針』参照

職長・安全衛生責任者の再教育(能力向上教育に準じた教育)

『建設業における職長等及び安全衛生責任者の能力向上教育に準じた教育について(平成29年2月20日付け厚労省労働基準局長通達)』


建設業に係る事業者は、職長等の職務に従事する者について、職長等の職務に従事することとなった後概ね5年ごと及び機械設備等に大幅な変更のあったときに、建設業に従事する職長等の能力向上教育に準じた教育(以下「職長等能力向上教育」という。)を受けさせるものとすること。また、安全衛生責任者の職務に従事する者についても、同様に安全衛生責任者の能力向上教育に準じた教育を受けさせるものとすること。

 6)危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育(同法第60条の2)
特別教育や技能講習修了後一定期間(概ね5年程度)が経過し、実際に危険有害業務に従事している者に対する再教育。『危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針』参照

(3)指導および教育の進め方

職長教育の法的な教育範囲は安全衛生分野に限定されますが、指導者としての考え方や取り組み方は、品質や効率といった他の管理事項にも共通するものがあります。

また、人材育成に関する現場の役割は大きく、どのような職長の下で働くかによっても成果は異なるということも、認識しておく必要があります。

① 指導者としてのあり方

教え、導く側の「職長としてどうあるべきか」、これは相手のあることでもあり明確に答えを出すことは難しいかもしれませんが、少なくともこうしたテーマで日々考え、行動する姿勢は必要です。

日々の反省
日々の反省

理論や理屈を理解できないと、行動を誤る原因となる。

しかし、理屈や理論の正しさを理解しても、それだけで行動するとは限らない。




職長は安全衛生面だけ配慮していればいいわけではないので、指導・教育すべき範囲は広く、また、現場作業である限りいつ機会が訪れるかもしれないといった困難さもあります。

さらに、建設業においては多くの職長が実務者と監督者を兼ねているのが実態であり、時間的な面からも厳しい条件が重なっていると考えられます。

しかし、それだけに指導教育の要否を判断し、適切な時期・場所・人といった条件を考慮したうえで、効果的なものとなるような取り組み・工夫が必要です。

教育を実施する際のポイント

② 必要な教育の把握~何を教えるのか

 職長は、部下に対してどのような指導・教育が必要かを把握しておきます。

 イ.新規入場者、配置転換者が配置されたときなど、法令で定められた教育

 ※法定教育や通達による教育など安全衛生教育の実施義務は事業者にありますので、職長が主体的に計画して実施するものではありませんが、部下への法定教育等の実施を事業者に要望したり、法定教育等の一部又は全部を担当する場合などが考えられます。

 ロ.作業手順や使用工具・機械、作業場所等について

 ハ.作業に関する技能や知識

 ニ.不安全行動について

 ホ.ルール順守について

 へ.発生した災害の原因と対策について

③ 教育の準備~いつ、どこで教えるのか

 イ.即座にその場で(不安全行動の発見時など)

 ロ.朝礼や終礼時に現場で(全体への共通事項など)

 ハ.作業中に現場で(技能教育、OJTなど)

 二.特定の日に会議室などで(法定教育など)

④ 教育の実施~どういう方法で教えるのか

教育の方法は、個別教育・集団教育、講義方式・討議方式、対面方式・オンライン方式などの種類があり、いつ・誰に・何を教えるかによってそれぞれの選択が考えられます。

 イ.個別教育:作業者個々を対象として行う教育。

 ロ.集団教育:同一業務スタッフ又は作業グループ等の構成員全体を対象として行う教育。

 ハ.講義方式:講師がテキストなどの資料を基に講義を行う方式。

 ニ.討議方式:参加者を4~6人程度のグループに分け、それぞれの知識・経験を基に予め用意されたテーマに沿って意見を出し合い、グループごとに結論を出したり、意見集約したうえで全体で発表、又はさらに討議を進めて議論を深めていく方式。講義方式が受け身であることに比べ、自ら考え答えを出していくことや、他者の意見を傾聴することで得られる新たな気づきが重視されており、教育効果が注目・期待されています。反面、講義方式より時間や手間がかかること、ファシリテーター(会議や研修などの進行、まとめ役)やメンバー構成などにより、期待する結果が得られない場合があることなどが短所とされています。

 ホ.対面方式:講師と対象者が同一の場所で相対して行う方式。

 へ.オンライン方式:令和2年(2020年)以降、新型コロナウイルス感染症防止の観点からリモートワークが推奨されたこともあり、多くの企業や学校がインターネットを介した教育・研修を実施するようになりました。これを受けて厚生労働省から通知が出され、所管の免許・技能講習や各種教育についても一定の条件を満たせば実施可能とされています。


【参考:『インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について』令和3年1月25日付け、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長・労働衛生課長・化学物質対策課長通知】

また、教育の際実施者が心得ておくべき原則に、次のようなものがあります。

指導及び教育の8原則

⑤ 教育効果の検証

社会人の教育についてはそれがどういった種類のものであろうと、教育・研修の効果はその後の行動の変化(行動変容)という形で得られるべきものです。従って、指導・教育にあたっては期待する行動の基準や到達点が示される必要があります。

実施後の教育事項や作業手順の遵守、作業態度などの具体的な状況を観察し、教育効果を確認することが大切です。

上手くいかなかった場合はどこに原因があるのかを調べ改善していくことにより、教育システムそのものもレベルアップしますが、検証も改善もせず教育効果も認められないということであれば、全くの時間の無駄ということになりかねません。

⑥ 習慣化と持続化

従来わが国では教育・研修そのものに対する依存度が非常に高く、事前準備の不足や事後のフォロー不足が、期待する成果に至らない原因として指摘されています。

業績につながる教育・研修の成功要因

特に事後のフォローは欠かせず、教育事項について実作業の中で習慣化・持続化していけるよう実践の機会を与え、必要に応じてこまめに指導をすることも職長の大切な役割です。


※OJT(オンザジョブトレーニング)

 作業現場で実際の作業を通じてその時々にあわせた指導および教育をすること

※OFFJT(オフザジョブトレーニング)

 作業現場を離れ、教育会場などを設けて指導および教育をすること

(4)作業の「教え方の4段階法」

「指導および教育の8原則」と併せて知っておきたいのが、特に技能教育によく用いられている基本的な方法としての「作業の教え方4段階法」です。

作業の教え方4段階法

(5)相手本位

教育は、その言葉が示すように実施する側の都合で行われがちですが、実施に当たってはどこまでも「相手本位」が重要となります。

相手本位

言い換えれば、いかに相手にとって「学び」になるように教えられるかです。

そもそも学ぶ気のない人に教えることなど出来ませんが、そういう場合は、その前のステップ「なぜ学びたくないのか」という理由を知るところから始める必要があります。

 

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