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【第2章】 第2節 硫化水素中毒の病理と症状

1 硫化水素中毒

硫化水素は水分に溶けやすい性質があります。中毒作用としては、外気に露出している眼や呼吸器の粘膜に溶け込むことからはじまります(図2-4、表2-4)。


図2-4 硫化水素中毒のメカニズム

硫化水素は通常の空気にはほとんど含まれていませんが、自然界では火山活動や有機物の腐敗などによって生成されており、稀に中毒事故が発生しています。火山地帯のくぼ地に溜まっていた硫化水素によって死亡事故も発生するなど、濃度によっては非常に危険な場合があり、酸素欠乏症と同様その特性や濃度と症状の関連について知っておくことは、退避を含め安全な作業の実施に不可欠です。


(1)濃度と症状の概要

①10ppm以下

臭気は感じるが、特に人体への影響はありません。


②10ppm~50ppm

濃度が高くなるにつれて臭気を感じなくなるが、目の粘膜への刺激などが現れます。人体への重大な影響はないとされています。


③50~600ppm

眼や呼吸器の粘膜を通じて吸収された硫化水素は、低濃度では体内で無害で排出されやすいものに変化するため脳神経細胞を犯すには至りませんが、濃度とばく露時間によっては呼吸器に致命的な症状を与える場合があります。


④700ppm以上

この程度の高濃度になると、体内で無毒に変える作用が間に合わなくなり、硫化水素が脳神経細胞に影響を与えるようになります。このため、意識を失うなど致命的な急性中毒が起こります。

表2-4 硫化水素濃度と中毒症状

(2)臭覚

①1~5ppm

この程度の濃度で、不快感が強くなります。


②20~30ppm

濃度が増してくると、臭覚神経の疲労が起こり、濃度が高くなったことを感じなくなります。


③100~300ppm

臭覚が麻痺し、不快感が減少するため危険を感じなくなります。

重要

硫化水素は濃度が高くなると臭わなくなる。

臭っているうちに退避する。硫化水素発生場所は酸欠の危険もある。

(3)眼

①   眼球の表面

硫化水素による眼の損傷は、眼の角膜水分に硫化水素が溶け込むことから始まります。角膜の上皮細胞が壊れると、視力障害や痛みが現れます。


②   角膜

角膜は硫化水素濃度が50ppm程度でも犯されます。角膜は炎症・充血・腫張を起こし、痒みや痛みが現れ、水疱を伴い角膜混濁や眼底異常に至る場合もあります。


(4)呼吸器

①   鼻咽喉、上部気道

症状は、鼻粘膜の乾燥・痛みを感じるようになります。時間の経過や濃度の上昇で鼻炎の状態になり臭気を感じなくなります。250ppm以上の濃度になると、咽頭や喉頭にも刺激性の症状が現れます。


②   気管支・肺胞

硫化水素濃度20~30ppmで、肺に刺激的な症状が現れます。100ppmを超えた状態で連続にばく露すると、気管支炎・気管支肺炎・肺炎等に進行し、肺水腫を引き起こします。肺水腫が発症すると肺でのガス交換が不能になり、窒息の危険が訪れます。肺水腫は、100ppmで48時間、600ppmで30分のばく露で発症します。


(5)皮膚

硫化水素にばく露されると、皮膚の発疹や化膿が生じやすくなります。損傷した皮膚が化膿しやすくなったり、発汗した皮膚へも刺激が現れます。


(6)神経毒

硫化水素は、その毒性により、人体の臭覚・眼・呼吸器に様々な影響を与えます。先述の通り、低濃度では人体の機能によって無害化されますが、無害化できる限界(700ppm)を超えると神経毒作用が起こります。高濃度の場合は1~2回の呼吸で呼吸麻痺という致命的な症状も現れます。

そして、脳神経細胞の破壊による様々な後遺症が残ることがあります。


 

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