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【第1章】第1節 酸素欠乏等の発生の原因①

1 主な酸素欠乏の発生の原因

※このテキストでは主として「酸素欠乏症」と「硫化水素中毒」の内容と、防止方法を扱っています。これら二つをまとめて言うときには「酸素欠乏等」と表示しています。


 

激しい運動をすると苦しくなり呼吸回数が増えますが、その原因は体内の酸素が不足するからだということを既にご存知のことと思います。人は空気中の酸素を体内(細胞)に取り込み活用してエネルギーを作り出しているからですが、稀に各種作業の現場では十分な酸素が存在しない場合があります。そういう現場に遭遇すると、激しい運動をしていなくても取り込める酸素の量そのものが不足しますので、場合によってはすぐに身動きが出来なくなりそのまま死に至るケースもあります。

酸素欠乏は、換気不良な閉鎖的、半閉鎖的な空間で起こりやすいといわれていますが、分類すると次のようになります。


① 空気中の酸素が消費されて発生する。

② 空気が無酸素空気に置き換えられて発生する。

③ 酸素欠乏空気が噴出・流入して発生する。


2 酸素が消費されて起こる酸素欠乏

鉄が錆びて茶色い粉のようなものが浮き出ているのを見かけたことがあると思いますが、これは鉄と酸素が自然に結合したもので「酸化」と呼ばれる現象の一種です。

このように酸素は様々な物質と結合しやすい性質を持っています。

屋外で鉄が酸化しても私たちの呼吸にはほとんど問題はないかもしれませんが、密閉された空間で酸化反応が進むと当然内部の空気に含まれている酸素が減ってくるため、場合によっては人体に影響を及ぼすことがあり、稀に死につながるほど酸素濃度が低下することもあります。


(1)化学的な酸素消費

① 鋼製タンク

鋼製タンク、特に鉄製タンク内に水分がある状態で長期間密閉しておくと、内壁が酸化されることで酸素が消費されます。海水のように電解質を含んだ水では酸化進行は早くなります。

タンク内部を水洗した後、十分水を抜かないで密閉され、時間が経過した後内部に労働者が入り、窒息した例があります。


② 密閉型湿式粉砕装置

鋼材の摩擦と水分により酸化が進み、内部の酸素が消費されます。


③ 中型・小型のタンカー

油槽内部の清掃作業で海水が使われるため、内壁の酸化が早く、空気中の酸素量が急速に減少し、内部清掃作業時に酸素欠乏症が起こります。


④ 貨物船のバラストタンク

船のバランスを調整するためのバラストタンクには海水を流入させます。そのため内壁が酸化され、空間があったとしてもほとんど無酸素状態に近い状態になっています。


⑤ 船倉

航海中に閉じられた船倉の蓋のわずかなすき間から進入する海水の塩分で、積み荷の鋼材やスクラップの酸化が起こり、船倉中が酸素欠乏状態になります。


⑥ ステンレス鋼・錆止め塗料

鉄鋼が全く錆びるおそれがない場合は、タンク内の酸素が消費されることは少なくなります。これらの効果は永久的に継続するものではなく、注意が必要です。


(2)貯蔵又は運搬中の物質による酸素の消費

① 石炭船

石炭、亜炭等は酸化・発熱する性質があります。放熱が悪いと自然発火することもあります。これを防ぐために船倉を密閉して空気を遮断するため、船倉の空気は酸素欠乏の状態になります。石炭は、条件によりメタンやエチレンを発生することもあり注意が必要です。


② 鉄鋼・くず鉄

湿潤状態では空気中の酸素と反応し酸化します。鉄以外では銅・亜鉛・鉛・又は鉄などの硫化鉱石を粉砕した微粉硫化精鉱等輸入鉱石運搬船の船倉や金属鉱山の坑内でも金属の酸化により酸素濃度が低下することがあります。


③ 有機物

アマニ油・ボイル油等の塗料用乾性油、大豆油・米ぬか油等の半乾性油のような食用油は酸素と結びつきやすい性質をもっています。これらの物質の貯蔵、利用の際には酸素欠乏を起こしやすくなるため注意が必要です。


(3)乾性油・魚油による酸素の消費

① 乾性油

乾性油は薄層にして空気中にさらすと酸素と化合して樹脂状の透明な個体に変化します。乾性油の種類には、アマニ油・エノ油・ボウイル油等があります。


② 地下室・船倉

通風、換気の悪い地下室や船倉等の内部を塗装するとき、塗料の乾性油は固結乾燥の際密閉された空間の酸素を消費します。


人と同じように、動植物や果菜、また菌類や微生物なども呼吸や発酵作用などで酸素を消費するため、密閉された空間の場合はこれらの呼吸作用等により酸素が欠乏することがあります。


(4)生物学的な酸素消費

① 穀物・野菜・果物等

穀物・野菜・果物等は、貯蔵中も呼吸作用を営み、酸素を消費して二酸化炭素を発生しています。したがって貯蔵庫等の換気が悪い場合は酸素欠乏状態になります。

米にカビが発生した場合は、多くの酸素が消費されます。輸入した米の倉庫から黄変した米を搬出する際に労働者が酸素欠乏症になった例があります。

バナナの熟成室でも酸素欠乏症は多く発生しています。輸入した直後のバナナは、青く、かたくて渋い状態です。これを室に入れて温度を上げ、成熟を早めます。室にエチレンガスを封入することもあります。これらも酸素濃度が低下し、二酸化炭素が発生した状態になります。


② 牛馬の冬の飼料

飼料として野菜や牧草を貯蔵するサイロの中もこれらの呼吸作用により、低濃度酸素、高濃度炭酸ガスの状態になります。


(5)木材の呼吸作用

① 原木・チップ

原木、パルプの原料となる木材の削りくずであるチップは、船舶で輸送中等に木材の呼吸作用、発酵作用又は樹脂の酸化作用等により、船倉内で酸素を消費し、二酸化炭素を発生します(図1-1)。

図1-1 木材運搬船の船倉内における酸素欠乏と二酸化炭素濃度の関係

同じ材種であっても、伐採後比較的新しい生木のもの、樹皮が多くついているもの、枝や葉が残っている方が呼吸作用は活発で酸素欠乏が起こる可能性が高くなります。中でもチップは細かく粉砕されているため表面積が大きく、酸素消費量が最も多いとされています。

チップが貯蔵されている場所では、通常人間が立った状態の位置では酸素濃度が正常値の21%であっても、チップの表面から20~30cmの低い位置になると酸素濃度が12~15%、チップ表面では、数%程度になることがあるため、この特徴を知っておく必要があります。


(6)有機物の腐敗、微生物の酸素消費

① し尿・汚水等のタンク

下水、汚物は細菌の増殖に伴って、はじめに酸素を消費し、二酸化炭素を発生します。さらに無酸素状態になるとメタン・硫化水素等が発生します。このため、下水や汚物層のマンホールでは、ガス中毒や窒息による災害が多く発生しています。

食料品工場、と畜場、魚市場、大規模な厨房等の下水槽、水洗便所の浄化槽等の汚水には、微生物の栄養源となる成分が多く含まれ、好気性菌による酸素消費、二酸化炭素の発生や、嫌気性菌のはたらきでメタンや硫化水素が著しく発生しています。ここで、好気性菌は酸素の存在下で増殖するし、嫌気性菌は無酸素状態で増殖する特徴をもっています。


② ケーブル、ガス管等を収容するための暗渠、マンホール

暗渠、マンホール内には長い年月の間に地表から汚水が流入して滞留しており、その中で微生物が酸素を消費して増殖しています。建設中のマンホール、ピット等の内部でもコンクリート打設時にセメントの強いアルカリ成分のはたらきで溶け出した木材成分と、滞留している汚水、さらにコンクリートの水和反応で生じる水和熱等が作用して、好気性菌による酸素消費及び嫌気性菌によるメタン、硫化水素の発生がみられます。


③ 醤油、酒類を貯蔵するタンク等

地上や地中にはさまざまな微生物が存在しており、周囲の空気や水、栄養源となる有機物等を利用して活動しています。表1-1は生物1kg当たりの30℃での1時間の酸素消費量を比較したもので、微生物の酸素消費量は、人の数倍から最高で6,000倍の量の酸素を消費する能力をもっています。人間はこの微生物を利用し、発酵食品や医療用抗生物質の生産、廃棄物処理等を行っています。

これら微生物は、繁殖に必要な酸素を空気中から取り込み、二酸化炭素や硫化水素、アンモニア等を発生します。したがって、密閉されたタンクの内部へ入ろうとする労働者は、酸素欠乏及び硫化水素中毒等に注意しなければなりません。


(7)人間の呼吸

① 呼吸の仕組

人間は空気を呼吸して酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するガス交換をしています。内部の気積が小さい、密閉された冷蔵庫や倉庫では、二酸化炭素の濃度が上昇し、酸素欠乏状態になります。1㎥の空間で、成人1人が生存できる時間は、およそ3時間といわれています。密閉して使用する施設では、扉や蓋が内側からでも外側からでも開閉できる構造とすること、また、警報装置も設置しておく必要があります。


表1-1 生物の酸素消費量

 

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