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【第6章】第1節 暑熱のリスクアセスメント(2)

3. 暑熱リスクの低減策(1)

(1)暑熱環境レベルの改善

 作業場所の WBGT 値を低減することで、暑熱環境レベルを改善する。WBGT 値は、気温、湿度、輻射熱(黒球温度)、風速の4つの要素で決まるため、これらの値をいかに低減させるかが重要です。


① 熱源の除去

 熱中症の最も根本的な対策は、暑さの原因となる熱源を取り除くことです。職場にあるあらゆる熱源を洗い出し、それが除去できるかを検討します。 屋内作業の場合は、熱を発生する設備のエネルギーを、生産活動に影響しない範囲でできるだけ落とします。

 電気炉などの大きい熱源はもちろんのこと、使用していない機器の電源をできるだけ落とします。照明器具についても、白熱灯やハロゲンランプから、エネルギー変換効率のよい LED 電球やメタルハライドランプに交換するなどの対策も有効です。


② 輻射熱、放射熱の遮断

 熱の伝播を防ぐために、熱源を遮蔽する対策です。加熱炉や溶融金属が熱源の場合は、輻射熱を防ぐため、反射性や断熱性の高い素材で作成した遮蔽板で熱源を囲い込みます。熱源を囲い込めない場合は、労働者の周辺を遮蔽板で囲み、輻射熱を防ぎます。熱源、もしくは労働者を囲う場合、断熱材の囲いは隙間をなくし、熱源のある内部の状況を観察するための窓も作業に支障が出ない範囲で小さくします。

 熱源を入れている容器の外側を冷やすことで、輻射熱を抑えることができます。その際は水冷もしくは空冷式の熱交換器等を活用します。空冷式を採用する場合は、循環させる空気の排気口を屋外に設置し、作業場所の暑熱環境に影響を与えないようにします。

 太陽光に対する遮蔽については、屋外作業では屋根を設けたり、テントを張ったりして日陰を確保します。室内での太陽光対策としては、ガラス窓に遮熱フィルムを貼ったり、カーテンを取り付けて太陽光を遮へいしたりします。また屋根や外壁が太陽光により暖められて、輻射熱の影響が出るときは、屋根に散水する、外壁の塗装に遮熱塗料を用いることで、一定の効果を上げることができます。

図表64 遮熱フィルム 資料 トラスコ中山 HP

 日中の屋外作業では、道路路面や作業場所の地面が太陽光を受け、熱を帯び、その輻射熱が作業場に影響を与えるため、散水などで冷却するなどの措置を講じます。ただし、散水した水の気化熱を利用しているため、「高湿度環境」では効果が薄く、また、湿度が上がるので、「風通しの悪いところ」では逆効果になることがあり、注意が必要です。


③ 空調の利用

 暑熱環境をクーラーや除湿機、送風機を用いて改善する方法です。熱中症のリスクアセスメントでは、暑熱環境レベルとしてWBGTを活用していますが、空調の利用は直接的に暑熱環境レベルを改善します。

 事務室内の作業では空調を活用し、室温が 28℃を超えないように管理します。 工場建屋内のように空間が広い場合は、工場の運転(操業)機器を一部屋にまとめ運転室をつくり、局所的に空調を活用します。労働者が頻繁に移動する位置には、冷風の吹き出し口や、スポットクーラーを設置したりします。なお、エアコンの室外機やスポットクーラーの排気口からの熱風が、労働者に当たらないように、向きや置場を検討します。

 またエアコンは外気温が一定の温度を超えると、エアコン自身の安全スイッチが働き、稼働しなくなることがあるので注意が必要です。 送風機は作業場に気流を作り、汗を蒸発させて体温を下げる効果があります。しかし、温度が体温を超えるような状況での送風機の使用は、暑さを助長することがあるので注意が必要です。また労働者と送風機の間に、熱源となるものがないように送風機の配置場所を検討する必要があります。

 ミスト発生装置を取り付けた送風機(ミストファン)はミストを蒸発させその気化熱を利用して温度を下げる効果があり、工場建屋内や屋外作業で利用されています。ただし、湿度を上げることになるので、「風通しの悪いところ」での使用は逆効果になることがあり、注意が必要です。


④  作業の中止、暑熱作業以外への変更

 屋内作業では1日の温度変化がない場合が多く、作業を行う時間帯を考慮し暑熱作業を避けることは容易ではない。しかし、屋外作業では、熱源は太陽(直射日光)が対象になり日中の WBGT 値が高い時間帯を避けることが比較的可能です。そのため、サマータイムを導入し、日中の作業を避け朝や夕方に作業を行い、作業工程を見直して屋外作業を夏季以外の時期に実施できないか検討します。

図表65 日中の作業を避ける 資料 日本キャタピラー社 HP


⑤  作業位置

 熱源の除去対策が取れない場合、輻射熱の影響を避けるため、遠隔操作で作業を行うなど作業位置は熱源からできるだけ離れた場所、又は、熱源との間に反射性や断熱性の高い素材で作られた断熱板を設置してある場所を選びます。大きな熱源がある工場建屋では、熱の対流の関係で、上層階の暑熱環境が悪化することがあります。このため、熱源と同じ又は、熱源より下の階層を作業場として利用できないか検討します。どうしても上層階で作業する場合は、開放できる窓、扉を開け、熱を外に逃がすか空調を利用します。

 太陽光を受ける屋外作業の場合は、時間によって太陽の位置が変化するので、時間帯に応じて直射日光を受けない作業場所を選びます。


(2) 作業強度レベルの改善

 作業の強度を低減させることで、作業強度レベルを改善する。特に熱中症が多発する夏季の日中の時間帯に、作業強度の激しい作業を組まないよう、作業計画の段階から検討します。 作業強度を下げる対策としては、作業の自動化や、人力に頼らざるを得ない場合は、作業強度の高い作業の省力化があります。

 例えば、重量物の持ち上げ運搬作業では、機械化によるサポートや昇降台車を活用したり、運ぶ人数を増やしたりするなどの対策を検討します。

 強度の高い作業が特定の人に偏らないよう留意し、一人ひとりの作業時間を短くする配慮も必要となります。

 なお、身長差があると低い人に重量の 7 割以上の負担がかかるので、2 人で作業を行う場合、身長差がないようにします(参考「高年齢労働者のための職場づくり」)。  

        図表66 作業強度を下げた事例 資料 高年齢労働者に配慮した職場改善事例 厚労省


(3) 衣服・装備レベルの改善

 衣服や保護具等の装備は、輻射熱などの暑熱環境ややけどなどの危険・有害要因から身体を守るために利用されるが、反面透湿性や通気性が悪くなり汗の蒸発を抑制するため、暑熱リスクを高めることになります。

 最近は、身体を冷却するなど暑熱作業を改善するための服装や保護具などの熱中症対策製品も利用されてきていますが、改善効果が定量的に評価できていないため、本マニュアルではこれらの熱中症対策製品はリスクの見積りを行う対象には含めず、残留リスク対策として取り上げました。衣服・装備リスクの見積りを改善するには、半そでの作業着や透湿性及び通気性の良い素材の衣服を着用します。

 服装は、透湿性、通気性の良いものを選択することが必要ですが、作業の種類によっては、化学物質取扱い作業、炉前作業など暑熱以外の危険有害要因から労働者を守る必要があるので、総合的にリスクを評価し服装を選択していくことが必要です。


(4) 総合リスク評価時の考慮要素の改善

 ①暑さへの順化、②自らの判断での小休止、③水分・塩分摂取の容易さ

 これらの要素がない場合、熱中症のリスクの見積もりの際に総合リスク評価を1段階上げることになります。したがって、これらの点も対応する必要があります。


① 暑さへの順化(慣れ)の獲得

 人間は、体温を調節するために、汗腺で産生した汗を皮膚表面ににじみ出させます。暑熱な環境や作業に慣れていない場合は、発汗が始まる時期が遅れ、汗腺のうち一部は発汗できず、汗に含まれるナトリウムの濃度が高くなる傾向があります。

 暑熱な環境や作業に慣れてくると、早めに大量の汗をかくことができるようになり、体温を調節しやすくなります。大量の汗をかくと水分とナトリウムをより多く失うことになるので、それに見合った水分・塩分を摂取する習慣を獲得することもできるようになります。

 暑さへの慣れ(順化)の有無が熱中症の発生リスクに大きく影響することから、計画的に、暑さへの順化期間(暑さに慣れ、その環境に適応する期間)を設けることが望ましいです。順化期間中は特に労働者の体調に配慮して、暑熱時間帯を避けたり、一連続作業時間を短くしたり、作業強度の高い作業を避けるなどの配慮が必要です。

 なお、労働者の順化の程度や体調、当日の暑熱環境の状況など多くの要因がかかわっており、一律に順化期間中の作業内容や時間等を決めることはできません。 暑さに順化するためには、7 日以上かけて暑熱作業に従事する時間を次第に長くしていきます。暑さへ順化すると、暑さを感じてすぐに汗をかけるようになったり、効率的に体温を下げられるよう血流を増やしたりと、暑さに対抗できるよう身体が体温調節の準備を整えられるので、熱中症のリスクを下げることができます。

図表67 総務省消防庁「平成26年 熱中症による救急搬送状況(週別推移)

 梅雨明けの急激に気温が上昇した時に、熱中症が多発することが知られています。梅雨明け直後は、作業負荷を減らし、普段よりこまめに休憩を取らせて水分・塩分を補給させるとともに、涼しい休憩所などで深部体温を低下させるなどの配慮が必要です。

 また、お盆休み明けにも熱中症が増加する傾向があります。これは、お盆休みで数日間、暑熱作業から離れることで暑さへの順化が喪失してしまうためです。お盆休み明けにも梅雨明けと同様な作業管理の配慮が必要です。さらに、ゴールデンウィーク明けの急激な気温の上昇、残暑のぶり返し等でも、暑さへの順化がない、あるいは喪失していることがあるので、同じ配慮が必要です。

 日常生活で暑さへの順化をさせるには、入浴時の半身浴やサウナで汗をかくだけでも効果があります。しかし、じっとしているだけでは順化に時間がかかるため、軽い運動(ウォーキング、ジョギング、自転車等の汗をかく運動)を組み合わせると 1 週間程度で暑さへの順化ができます。梅雨の間はシャワーで済ませず浴槽につかってしっかり汗をかくように心がけます。日ごろからウォーキングなどで汗をかく習慣を身につけて暑さへの順化をしていれば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にもかかりにくくなります。 


② 自らの判断での小休止

 1時間を超える連続作業で、労働者自らの判断で小休止を取ることができない場合、熱中症の総合リスク評価を1段階上げます。暑熱への順化の程度や体調は労働者ごとに異なるため、労働者が自らの判断で小休止をとれるようにルールを定め、休憩する場所を確保しておくことが必要です。

 ただし、炉などの熱源のある製造業では、一般の環境より高温多湿な場所で作業を行うこと、作業する人の体調に合わせて休憩をとりにくいこと、長時間身体を動かすことなどにより、熱中症が発生しやすい職場環境となっています。このため、作業の休止時間及び休憩時間を確保し、作業を連続して行う時間を短縮する、暑熱作業以外の作業を組み合わせるなどの対策を行っておくことも必要です。

 作業時間管理として、事前に WBGT 予測値に応じた連続作業時間及び休憩時間を定めておき、WBGT の実測値や高温注意情報等を確認して、身体作業強度に応じた WBGT基準値を超える場合には、適宜こまめに休憩時間をとるようにして、連続作業時間を短縮するように見直すことが必要です。

 例えば、WBGT 予測値が 31℃を超える場合は、作業強度が軽くても最大連続作業時間を 1 時間以内とし、その後休憩室 ( クールダウンルーム ) で体温が回復するまでの間休憩をとることとするなど、作業実態に合わせて連続作業時間や休憩の頻度や時間を決めておくことが必要です。 


③ 水分・塩分摂取の容易さ

 水分・塩分摂取が自由にできない場合も、総合リスク評価が1段階上がることになります。

 一般的に、人は1日約 2.5ℓの水分を体内から失う(尿:約 1,500mℓ、呼気や皮膚から失われる水分:約 900mℓ、便:約 100mℓ)。体温が上がると、汗が体表面を濡らし気化することで体温を下げるラジエータのような働きをします。暑熱作業では 1 時間に 2ℓ以上の汗をかくこともあり、意識して水分の摂取を心がける必要があります。大量の汗をかいた時は、その分の水分と塩分を補給しなければなりません。かいた汗の量を知るためには、作業前後の体重を比較するとよいです。

図表68 作業前後体重測定

 大量に汗をかいた時に、水だけを飲むと…血液のナトリウム濃度が下がり、発汗量に見合った量の水を飲めなくなる(自発的脱水;図Ⅱ-7)。同時に余分な水分を尿として排泄するため、汗をかく前の体液を回復できなくなり、運動能力が低下し、体温が上昇して、熱中症の原因となる(熱痙攣等)。汗で失われる塩分(ナトリウム)もきちんと補給することが大切です。

図表69 体液不足になる流れ 資料:効率的な水分補給|大塚製薬

 塩分の目安は0.1~0.2%程度(ナトリウム量17~35mEq、40~80mg(100mℓ中))。1ℓの水に塩をひとつまみ(1 ~ 2g)入れた食塩水は、職場でも簡単に用意できます。飲みやすく、冷えたスポーツドリンクを入れたポットやジャグを職場の身近に備えておくことが勧められます。また、ナトリウムは、ごま塩、塩の錠剤(飴、サプリ、グミなども含む)、梅干などからも摂取できます。塩飴 1 錠を舐めながらコップ 1 杯の水を飲むという方法でもよいです。

 なお、大量の発汗の時には、スポーツドリンクではナトリウムの含有量が少ないため、十分な水分とナトリウムが吸収できないことがあります。その場合、産業医等の指示のもとで、ナトリウムが多く含まれる経口補水液を飲ませます(表Ⅱ- 10)。

 「のどが渇いた」「口の中が乾燥する」「尿量の減少」「体温上昇」「脈拍が多い」と感じるのは、脱水により体重が 2 ~ 5% 減少した時です。つまり、これらの症状を自覚した時には既に脱水状態になっています。自覚症状にかかわらず、作業開始前と作業中 20 分くらいごとに 100 ~ 200mℓ程度の水分とナトリウムを計画的に補給するのが、熱中症予防には効果的です。さらに、労働者の水分とナトリウムの摂取を確認するための記録表を作成して作業場内に掲示し、管理監督者などが作業中に巡視で確認します。

 冷えた水やスポーツドリンクを飲むと、水分補給だけでなく、深部体温を下げる効果が期待できます。ただし、冷たすぎると吸収が悪くなるため、冷やす場合も 5 ~ 15℃とします。

 

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