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【第2章】第1節 WBGT値に関して

1. 熱中症の客観的尺度

 熱中症を予防するためには作業場所がどの程度の暑熱環境であるかを客観的に評価することが重要です。暑熱ストレスを評価するには気温のみでは不十分です。屋外作業での熱中症発生時の気象状況を調べた結果の例では、気温が30℃を超えると熱中症発生件数が急増していますが30℃より低くても相対湿度が高い場合には熱中症が発生していることがわかります。

 熱中症の発生にはひとつだけでなく輻射熱(放射熱)と空気の流れ(風速)も大きく影響します。一方で、比較的冷涼な環境でも激しい身体活動を行う、厚着をしすぎると暑くて汗をかくことがあるように、身体作業強度や作業服の保温力・断熱性能も重要な因子となります。

 このように作業場所が暑熱環境であるかどうかを知るためには気温のみならずその他のリスク因子(湿度、風速、放射熱、作業服の熱特性など)に留意し総合的に評価することが極めて重要となります。

図表20 気温・相対湿度と熱中症発症の関係

 気温だけでなく湿度、風速、放射熱、作業服の熱特性、身体作業強度を考慮した WBGT(湿球黒球温度)値 という暑熱ストレス評価する方法があります。

 WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位:℃))の値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数(式①又は②により算出)であり、作業場所に、WBGT測定器を設置するなどにより、WBGT値を求めることが望ましいです。

 特に、WBGT予報値、熱中症情報等により、事前にWBGT値が表1-1のWBGT基準値(以下単に「WBGT基準値」という。)を超えることが予想される場合は、WBGT値を作業中に測定するよう努めてください。

ア 屋内の場合及び屋外で太陽照射のない場合

WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度  式①

イ 屋外で太陽照射のある場合

WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度  式②


自然湿球温度 強制通風することなく、輻射(放射)熱を防ぐための球部の囲いをしない環境に置かれた濡れガーゼで覆った温度計が示す値
黒球温度 次の特性を持つ中空黒球の中心に位置する温度計の示す温度 (1)直径が150mmであること(2)平均放射率が0.95(つや消し黒色球)であること(3)厚さが出来るだけ薄いこと
乾球温度 周囲の通風を妨げない状態で、輻射(放射)熱による影響を受けないように球部を囲って測定された乾球温度計が示す値

2. WBGTの測定方法

 WBGTの値の測定を行うためには、状況に応じて、自然湿球温度計、黒球温度計又は乾球温度計を使用し、それぞれの測定値を基に1の(1)又は(2)の式により計算する。なお、作業場所で測定するためのWBGTの値を求める計算を自動的に行う機能を有した携帯用の簡易なWBGT測定機器も市販されている。

作業場所において、WBGTの値の測定を行う場合に注意すべき事項は、次のとおりである。

  1. 屋内では、熱源ごとに熱源に最も近い位置で測定すること。また、測定位置は、床上0.5m~1.5mとすること。
  2. 屋外では、乾球に直接日光が当たらないように温度計を日陰に置き測定すること。
  3. 自然湿球温度計は強制通風することなく、自然気流中での温度を測定すること。
  4. 黒球温度は安定するまでに時間がかかるので、15分以上は放置した後に温度を測定すること。
  5. 少なくとも事前にWBGTの値がWBGT基準値を超えることが予想されるときは、WBGTの値を作業中に測定すること。

 WBGT 測定器の一例を下に示します。 WBGT 値の測定器(写真中央)は自然湿球温と黒球温を測定することにより湿度、風速、放射熱の影響も評価できます。

 

この機器は気温、自然湿球温、黒球温を連続測定してデータ記憶域に取り込み WBGT値を算出します。連続記録はできませんが WBGT をリアルタイムで算出できる(写真右)ハンディタイプの測定器も市販されています。温度計と黒球があれば、自作(写真左)することも可能です。

図表21 WBGT測定器 資料:建設現場における熱中症対策事例集 国土交通省

3. WBGT値に係る留意事項

(1) WBGT値の留意事項

 表1-2に掲げる衣類を着用して作業を行う場合にあっては、式①又は②により算出されたWBGT値に、それぞれ表1-2に掲げる補正値を加える必要があります。

 また、WBGT基準値は、既往症がない健康な成年男性を基準に、ばく露しても、ほとんどの者が有害な影響を受けないレベルに相当するものとして設定されていることに留意してください。

 WBGTの測定が行われてない場合においても気温(乾球温度)および相対湿度で熱ストレスの評価を行う際の参考にしてください。気温(乾球温度)と相対湿度を用いて 表2からWBGT値を求めることができます。ここで求められた WBGT値は表1-2の基準値表に照らし合わせて熱中症予防に活動することができます。

 作業場所に温度計や湿度計、 WBGT( 湿球黒球温度)を測定できる機器を設置するなどにより作業中の WBGT値、温湿度等の変化に留意します。特に WBGT 予報値、熱中症予報などにより事前の WBGT の値がそれぞれの基準値を超えることが予想される場合は WBGT のあたりの作業中に測定することが望ましいです。

 WBGT予報値、熱中症予報などがインターネットなどにおいて提供されているので、熱中症の予防対策を事前に準備するために、これを利用することができます。

(2) 熱ストレスの例

 例えば表1-1に示したように重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする作業用コンクリートブロックを積む作業は代謝率の高い重作業に相当します。そのような作業を暑さに馴れた作業者が気流を感じる作業場で行う場合は WBGT の基準値は25℃であり、この値を超えたらいつでも熱中症が発生する恐れがある暑熱環境であると判断できます。

(3) ISO7243及びJISZ8504による熱ストレスの評価

 労働環境では世界的にはISO7243がWBGT値を用いて作業場の暑熱環境の評価を迅速かつ簡便に実施する方法を提案し、身体作業強度別、暑熱順化の有無、気流の有無により14通りの WBGT による暑熱許容基準値が示されています。ISO7243に準拠したJIS Z 8504 「WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境」が国内では紹介されています。

 また、身体作業強度は作業強度別に対応する作業列とともに表1-1に示しました。なお厚生労働省平成17年7月29日、基安発第0729001号通達では JISZ8504に準拠し、WBGT の活用を促しています。

図表22 表1-1 身体作業強度等に応じたWBGT基準値 注1:日本工業規格 Z 8504(人間工学―WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価―暑熱環境)附属書 A「WBGT 熱ストレス指数の基準値表」を基に、同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成したものです。

注2:熱に順化していない人とは、「作業する前の週に毎日熱にばく露されていなかった人」をいいます。

図表23 表1-2 衣類の組合せによりWBGT値に加えるべき補正値 図表24 表2 WBGT値と気温、相対湿度との関係

4. WBGT基準値に基づく評価等

(1) 評価結果からの対策

 WBGT値が、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、冷房等により当該作業場所のWBGT値の低減を図ること、身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること、WBGT基準値より低いWBGT値である作業場所での作業に変更することなどの熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めてください。

 それでもなお、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、第2の熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発生リスクの低減を図ります。

  ただし、WBGT基準値を超えない場合であっても、WBGT基準値が前提としている条件に当てはまらないとき、又は補正値を考慮したWBGT基準値を算出することができないときは、実際の条件により、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合と同様に、第2の熱中症予防対策の徹底を図らなければならない場合があることに留意してください。

 上記のほか、熱中症を発症するリスクがあるときは、必要に応じて第2の熱中症予防対策を実施することが望ましいです。

(2) 工事現場の事例研究

 作業現場の暑熱ばく露実態を把握するために8月下旬に実施した東京の電話線接続工事現場の測定結果を示します。

図表25 電話接続工事作業時のWBGT値の変動

 気温は作業開始時の9時頃には30℃を越え、日中は36°から40° C 前後で推移していました。電話線接続工事は長時間電柱上での立位作業であるため、表1-1に分類された身体作業強度は低代謝率レベルと考えられます。

 しかし作業時間帯の WBGT 値は11時から16時まで身体作業強度が低代謝率の許容基準である29から30℃を超えており、安静時の許容基準である32から35°を超えることもあります。このように WBGT値が 表1-1の許容基準値を超えることは9月に行った東京、神奈川、名古屋のその他の屋外作業現場の調査でも良く見られます。

 これらの現場調査結果から我が国の夏季の屋外作業では WBGT の基準値を超える現場が相当数あることが見込まれます。

 

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