メニューボタン

【第6章】第1節 暑熱のリスクアセスメント(4)

4. 残留リスクへの対応

 熱中症のリスクについては、熱源のある環境で作業を行っている限り、どのように対策を行ってもリスクがゼロになることはなく、さらにリスクレベルが「Ⅱ軽度のリスク」以下にならないことも多いです。

 そのような場合は、熱中症の残留リスクがあること、そのリスクレベルはどれくらいかということを管理監督者、作業者全員が正しく認識し、日々の作業管理・健康管理等を行うことが重要です。無理にリスクレベルを下げ、リスクがなくなったように取り扱うことは、リスクアセスメントの誤った運用であることを十分認識しなければなりません。

 残留リスクのへの対応としては、健康リスクアセスメントを実施して個々の労働者の就業の可否等を決める方法や、暑熱作業用の衣類を利用する方法などがあります。また、リスクの高い暑熱作業を行う際の水分や塩分の摂取の基準や一連続作業時間の基準を定める方法などもあり、本テキストの事例に参照ください。


(1) 健康リスクアセスメント

 このマニュアルでは、個人的な要因をリスクの見積りに反映しないこととし、リスク低減措置として対応するとともに、残留リスクへの対応として取り上げることとしました。リスク低減措置実施後のリスクの見積りで、熱中症のリスクが解消できない場合は、労働者ごとに次に示す健康リスクアセスメントを実施して必要な対応を行うことが必要です。

 総合リスクが「Ⅲ中程度のリスク」、「Ⅳ大きなリスク」又は「Ⅴ非常に大きなリスク」となりリスク低減対策を行っても総合リスクが「Ⅱ軽度のリスク」以下に低減できない場合は、その作業に従事する者について、個別に健康リスクを評価します。本リスクアセスメントでは、個人ごとの健康リスクの評価を健康リスクアセスメントと呼びます。

 健康リスクアセスメントは、産業医その他の産業医学に関する知識があり当該職場をよくわかっている医師によって総合的に実施されることが望ましいです。その際、「3. 暑熱リスクの低減策(5)その他の熱中症予防・重症化防止のための対策…⑤個人差への配慮」などに留意することが必要です。

 従事する労働者が一般健康診断の結果、暑熱作業に従事することが制限されている場合であっても、医学的治療や生活習慣の改善によって健康状態の改善が期待できる場合には、それらを優先的に実施してもらい、健康リスクアセスメントを繰り返します。

 医学的治療や生活習慣の改善が実施され、健康状態が改善された場合には、就業を一部又は全部制限する必要があるかどうかを判定します。

図表79 健康リスクアセスメント

 就業制限は必要ないと判定された場合であっても、医師が必要と認めた場合には、作業前、休憩時間中、作業後等の機会に生体モニタリングとして体温・体重・脈拍を測定することを条件に就業可と判定します。できるだけ暑熱作業のある事務所や休憩場所などに体温計、体重計、血圧計などを備えておく必要があるが、生体モニタリングが必要な作業者が存在する可能性がある場合には、必ず備えておく必要があります。

 生体モニタリングの結果、次のような結果が出た場合は、当日の作業を中止させ、それぞれの測定結果が作業前の状態に戻るまで水分や塩分を摂取させながら休憩をとらせる必要があります。

  • 体温を測定した結果、舌下温で 38.0℃、腋下温で 37.5℃を超える場合
  • 体重を測定した結果、作業開始前より、1.5% を超えて体重が減少している場合
  • 脈拍を測定した結果、1 分間の心拍数が、数分間継続して、180 から年齢を引いた値を超える場合

(2) 熱中症対策衣類等の使用

 熱中症対策のために、さまざまな衣類等が作られています。一般に夏季には透湿性や通気性の良い生地でできた、半そでの衣類を使用されることが多いです。圧縮空気を断熱膨張させ冷却させ、冷却材を使用するベストなどのほか、衣類の内部に空気を送り、汗を蒸発させ、気化熱を奪うものなどが市販されています。また、頭部や頸部など狭い範囲を遮熱し、冷却材や水を使うものなどがあります。

 これらの衣類等を使用する際には、作業性や作業環境の状況、保守のしやすさなどを考慮して採用することが必要です。

 

このページをシェアする

講習会をお探しですか?

 

受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています

WEB講習
オンラインで会社や自宅で受講可能
出張講習
指定の会場へ講師を派遣いたします

▲ページ先頭へ